恐怖症とは?種類や診断基準、症状や原因、治療法や利用できる支援について説明します

更新 2021/05/20 公開 2019/04/17
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一般に「恐怖症」と言われるときは、俗称として使われる場合と医学的な診断基準に該当する場合があります。恐怖の対象により数多くの種類があり、症状の程度も人によりさまざまです。この記事では「限局性恐怖症」の説明を中心に、対人恐怖症や広場恐怖症との違い、そのほかの恐怖症の症状の種類、診断基準、治療法や利用できる支援などについて解説します。
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目次

  1. 恐怖症とは
  2. 恐怖症の種類
  3. 恐怖症の診断基準
  4. 恐怖症の症状
  5. 恐怖症の原因
  6. 恐怖症の治療法
  7. 恐怖症のある人が利用できる支援
  8. まとめ

恐怖症とは


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特定の対象や状況に対して強い不安と恐怖を抱いている状態です。不安や恐怖の対象は幅広く、落ち着きがなくなる程度から著しい恐怖を覚える場合まで、さまざまな程度の症状が一般に「恐怖症」と呼ばれています。

高所恐怖症や男性恐怖症、先端恐怖症など一般的な会話の中で「自分は〇〇が苦手」という意味で用いられる恐怖症がある一方、医学的な診断名としての「恐怖症」については、アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)や世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)が診断基準を定義しています。
DSM-5では「不安症群/不安障害群」の一種である「限局性恐怖症」、ICD-10では「恐怖症性不安障害」の一種である「特異的(個別的)恐怖症」に分類されています。特異的(個別的)恐怖症の生涯有病率(一生のうちに一度は病気にかかる人の割合)は約10%とされているように、恐怖症は比較的頻度の高い疾患です。

参考
中根允文 ほか「ICD-10精神科診断ガイドブック」


「誰もが持つ恐怖」と「恐怖症」の違い

私たちは皆、何らかの対象や状況に対する恐怖心を持っていますが、多くの人の場合はその恐怖心が強い精神的苦痛を引き起こしたり、日常生活に影響を及ぼすことはありません。
一方、恐怖症のある人は特定の対象や状況に対して過剰な不安や恐怖を抱き、その対象や状況を避けようとする「回避行動」をとります。この回避行動によって日常生活に支障をきたすことがあれば、恐怖症と診断される可能性があります。


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恐怖症の種類


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恐怖症の種類は学術用語となっているだけでも200を超えるといわれており、非常に多くの種類があります。恐怖を引き起こす対象や状況のことを「恐怖刺激」といい、あらゆるものや状況が恐怖刺激となる可能性があります。

DSM-5における「限局性恐怖症」とICD-10における「特異的(個別的)恐怖症」は、医学的な意味での「恐怖症」を恐怖刺激の種類ごとに以下のように分類しています。
  • 動物型(クモ、昆虫、犬など)
  • 自然環境型(高所、嵐、水、地震など)
  • 血液・注射・負傷型(注射針、侵襲的な医療行為など)
  • 状況型(航空機、エレベーター、閉所、暗闇など)
  • その他(窒息、嘔吐、騒音、先端、試験、疾病など)

ひとりの人が複数の恐怖症を持っていることも多く、限局性恐怖症では平均して3つの恐怖刺激に対しての恐怖が認められるといわれています。


恐怖症の診断基準


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医学的な意味での「恐怖症」は、DSM-5とICD-10がその診断基準を示しています。
DSM-5はアメリカ精神医学会が作成した精神疾患の分類マニュアルで、国際的な診断マニュアルとして使われています。一方、ICD-10は世界保健機関(WHO)が作成した国際疾病分類で、精神疾患だけでなくすべての疾患が分類されています。精神疾患の診断では一般に、DSM-5の診断基準が使われています。

限局性恐怖症と恐怖症性不安障害の診断基準

DSM-5は限局性恐怖症の診断基準として、以下の7項目を挙げています。ICD-10における恐怖症性不安障害(特異的(個別的)恐怖症)の診断基準の項目はそれよりも少なく、その内容はDSM-5の診断基準に含まれます。名称は異なりますが、症状としてはほぼ同じ疾患です。

  • 特定の対象や状況への顕著な恐怖と不安
  • 恐怖の対象や状況がほぼ毎回、即時に恐怖や不安を誘発する
  • 恐怖の対象や状況は積極的に回避されるか、強い恐怖や不安を感じながら耐え忍ばれている
  • 恐怖や不安は、特定の対象や状況によって引き起こされる実際の危険性や社会文化的状況に釣り合わないほど強い
  • 恐怖や不安、回避は持続的であり、典型的には6ヵ月以上続いている
  • 恐怖や不安、回避が臨床的に意味のある苦痛や、社会的、職業的、その他の重要な領域において機能の障害を起こしている
  • その障害は、広場恐怖症や社交不安症など他の精神疾患の症状ではうまく説明されない

恐怖や不安、回避行動があっても、それらが日常生活や社会生活などに支障をきたしていない場合は正式な恐怖症とは診断されません。
恐怖や不安が過剰で不合理であることを本人が認識している場合もありますが、恐怖刺激の危険性を過大評価する傾向があるため、恐怖や不安が「実際の危険性や社会文化的状況に釣り合わないほど強い」かどうかの判断は、主に医師が社会文化的背景も考慮しながら行います。

類似の異なる疾患

DSM-5やICD-10では、対人恐怖症や広場恐怖症は別の疾患として分類されています。広場恐怖症は恐怖症の「状況型」との区別が難しいことがありますが、DSM-5は診断について、恐怖刺激が1つのみである場合は状況型の恐怖症、2つ以上である場合は広場恐怖症との目安を示しています。
またパニック障害のある人の中には、閉所や高所でパニック発作が起こる人もいます。特定の恐怖刺激に対してのみパニック発作が起こる場合は恐怖症と診断されますが、特定の恐怖刺激以外の、本人が予期していなかった対象や状況に対してもパニック発作が起こる場合はパニック障害と診断されることが多いようです。




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恐怖症の症状


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精神症状

特定の恐怖刺激に直面すると、即時に強い不安や恐怖、嫌悪感が現れます。血液・注射・負傷型の恐怖症では恐怖や不安よりも嫌悪感の方が強い傾向があるものの、歯科治療恐怖では嫌悪よりも恐怖が強い場合が多いとされています。
また動物型では、恐怖刺激がゴキブリやネズミ、クモなどである場合は不安や恐怖よりも嫌悪感を抱く傾向があるといわれています。

身体症状

失神や動悸、呼吸困難や発汗などの症状や、ときにはパニック発作が誘発されることもあります。血液・注射・負傷型の恐怖症では、心拍数増加・血圧上昇に続いて心拍数低下と血圧降下を示して意識を失ってしまう「血管迷走神経性失神」を起こすことがあります。

恐怖症に併存しやすい症状

恐怖症は、他の種類の不安障害や抑うつ障害群などを伴うことがあります。これは恐怖症の症状だけを理由に医療機関を受診するケースは少なく、回避行動が強くなり、日常生活での支障が大きくなった結果としてパニック障害や社交不安症、うつ病などを併発してからようやく受診するケースが多いためであると考えられています。
アルコールなどで恐怖をやわらげようとすることから、物質関連障害を合併することも多いといわれています。



恐怖症の原因


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恐怖症の原因はわかっていませんが、以下の要因が関係している可能性が指摘されています。しかし原因と考えられる体験から発症まで平均で約9年を要するとされており、発症のきっかけとなった出来事を思い出せない人も少なくありません。

参考
「精神科治療学 Vol.26増刊号 2011年 10月 神経症性障害の治療ガイドライン」

環境要因

・親の過保護
・親を失う、または離れ離れになるなどの経験
・身体的または性的虐待など

遺伝要因

動物型や状況型などの種類の恐怖症を持つ人は両親や兄弟姉妹、子供のなかにも恐怖症を持つ人がいる傾向があることから、遺伝的要因が関係している可能性が指摘されています。

その他

・強い恐怖や無力感などを伴い、精神的衝撃を受けた体験
・恐怖を感じる状況下で起こったパニック発作
・情報による学習(事故や災害についての過剰なマスコミ報道、親が見せる恐怖や回避行動など)


恐怖症の治療法


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主に精神療法が用いられ、場合によっては薬物療法が併用されることもあります。

精神療法

エクスポージャー法(曝露療法)が有効であるとされています。「認知行動療法」と呼ばれる治療法のひとつで、医師と相談しながら、不安や恐怖を感じる場面をリストアップし、恐怖刺激にあえて直面して刺激に慣れていくことで、不安や恐怖を減らしていく治療法です。
恐怖の度合いが低い順から高い順へと段階的に課題を設定して進めていきます。犬恐怖症の場合は犬の絵や写真、動画などを見ることから始め、次に閉まっている窓越しに生きている犬を見ます。大丈夫だと思えたら窓を少しずつ開けていき、次は開いているドア越しに生きている犬を見るというように、実際の対象に少しずつ近づきながら慣れていきます。最終的には、自分のいる部屋に生きている犬が入ってきても回避行動をとらない状態を目指します。
実際の恐怖刺激に直面する「in vivo exposure」のほか、飛行機や歯科治療、高所など、治療場面において再現が難しい恐怖刺激の場合はコンピューターグラフィックや音声刺激などを使った「仮想現実曝露療法」が行われることがあります。
また、偏った信念を修正していく「認知療法」や、呼吸法や筋弛緩法などのリラクゼーション法を併用することもあります。


薬物療法

恐怖症に対する薬物療法の効果についてのデータは不十分であり、有効性が証明されていません。このため、抑うつ状態やパニック発作などを併発している場合にそれらの症状に対して、抗うつ薬や抗不安薬が処方されることもあります。


恐怖症のある人が利用できる支援


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恐怖症の診断基準に当てはまる場合や、恐怖症に他の疾患を併発している場合には以下の支援制度が利用できる場合があります。ただし自治体により運用基準が異なるため、利用の可否については病院の相談窓口や市区町村の障害福祉窓口で相談してみると良いでしょう。

仕事に関する支援制度

恐怖症のある人が仕事を探していたり、働き方について悩んでいる場合は、以下の制度を利用できる場合があります。

就労移行支援

一般企業への就職を目指す障害や疾患のある人が、働くための知識や能力を身につけるためのサポートを行うサービスです。職業訓練、就職活動のサポート、職場定着支援の3つの内容を中心に、就職前から就職後までの過程を一貫してサポートします。
仕事を続ける上での体調管理やストレスコントロールなどのセルフマネージメントができるようになるためのサポートや、就職した後も職場にスムーズに定着できるための支援も行っているため、就職に伴うさまざまな不安を解消していくことに役立つでしょう。


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就労継続支援

障害や疾患のある人へのサポート環境が整備され、安定的に働くことができる職場を提供する福祉サービスです。
A型とB型があり、A型では一般就労に比較的近い職場環境で、事業所と雇用関係を結び、最低賃金額以上の給与を受け取りながら働きます。B型は年齢や体力、症状などの理由から一般就労が困難な人が短時間だけ働くことが可能で、雇用契約を結ばず、生産物に対する成果報酬の「工賃」が支払われます。



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経済的な支援制度・自立支援医療制度制度(精神通院医療制度)

精神疾患があり通院中の人や、症状がなくなったが予防のために通院している人の医療費の自己負担額を軽減する制度です。


障害年金

障害や疾患のために生活や仕事に支障が出た場合に支給される年金です。若い人でも、働いていた場合でも、症状により仕事が制限されていると判断されれば生活の一部を支援する額が支給されます。


傷病手当金

疾患や怪我で会社を休んだときに無収入になってしまうことを避け、生活を保障する目的で支給される手当金です。



まとめ


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一般に「恐怖症」と呼ばれる症状の対象となる恐怖刺激には非常に多くの種類があり、それらに対して抱く不安や恐怖の程度も人により異なります。恐怖刺激がもたらす現実の危険に不釣り合いなほど強烈な不安や恐怖を抱き、回避行動をとるために日常生活に支障が出ている場合は、医学的な診断名としての「恐怖症」に当てはまるかもしれません。
比較的頻度の高い疾患ですが、性格的なものと捉えて疾患の自覚がないケースも多いために、医療機関を受診する人が少ないのが現状です。しかし恐怖症は治療により改善が見込める疾患であり、治療を受けていく上でさまざまな支援が利用できる場合もあります。困りごとが多い場合は、いちど医師に相談してみると良いかもしれません。


参考
中根允文「ICD-10「精神・行動の障害」マニュアル」
中根允文 ほか「ICD-10精神科診断ガイドブック」
中根允文「ICD-10精神および行動の障害-DCR研究用診断基準 新訂版」
「精神科治療学 Vol.26増刊号 2011年 10月 神経症性障害の治療ガイドライン」
日本精神神経学会「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」
貝谷久宣 ほか「不安症の事典 こころの科学増刊」
坂野 雄二 ほか「不安障害の認知行動療法」
貝谷久宣「嘔吐恐怖症」
監修者の写真
監修 : 増田史
精神科医・医学博士
滋賀医科大学精神科 助教
医療法人杏嶺会 上林記念病院 こども発達センターあおむし
著書に『10代から知っておきたいメンタルケア しんどい時の自分の守り方』(2021年8月 ナツメ社)
https://www.natsume.co.jp/books/15323
執筆者の写真
執筆 : LITALICO仕事ナビ
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