2019年2月、ファッションブランド「たいせつプロダクト」 の展示会が、東京・自由が丘の会場で開催されました。
ほっとする温かみのあるイラストや、くすっと笑ってしまうユニークなイラスト。
商品にあしらわれているイラストを描いているのは、就労継続支援B型事業所「障がい福祉サービス事業所 愛」に通う、知的障害のある利用者さん(以下、「メンバー」)です。
メンバーの描いたイラストに「たいせつプロダクト」のデザイナーが手を加え、洋服やアクセサリーを製作・販売。売上の一部は、事業所でのアート活動や知的障害のある人の自立支援に役立てられています。
ブランドテーマは、”アートを身にまとう“。年齢や性別を問わず身に付けられるデザインが特徴です。
カラフルで個性的なこれらの商品は、どのようにつくられているのでしょうか。
そこには、障害のある人が「自分を大切に、自分らしく表現する」ことからスタートし、関わる人すべてが幸せになるようなものづくりの仕組みがありました。
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「たいせつプロダクト」のイラストが生み出されているのは、福岡県西区今宿にある「障がい福祉サービス事業所 愛」。知的障害のあるメンバーが通う就労継続支援B型事業所・生活介護事業所で、普段は農作業や箱作りなどの作業が行われています。
この事業所で2週間に一度行われるアート活動が、「あいあいエクスプリモ」。メンバーが自由に絵を描き、表現する時間です。
「たいせつプロダクト」のスタッフは、一緒に参加する芸術表現活動「あいあいエクスプリモ」で描かれた絵をもとに、洋服やアクセサリーをデザインしています。
ブランド誕生のきっかけは、2013年、「障がい福祉サービス事業所 愛」から「株式会社たいせつプロダクト」(※当時の社名は「有限会社ジェイズファクトリー」)へ、「メンバーの表現活動を手伝ってほしい」と依頼されたことでした。
アート活動を手伝った「たいせつプロダクト」のスタッフは、メンバーの描くエネルギッシュなイラストの数々にすっかり魅了されてしまったのだといいます。
「メンバーの描くイラストを、直接身に付けられる洋服としてデザインしたい」
これが、ファッションブランド「たいせつプロダクト」のスタートでした。
現在、デザイナーやアートディレクターをふくむ4名のメンバーでブランドの運営を行なっています。今回は展示会会場でお会いしたアートディレクターの鬼塚淳子さんと田中みほさんに、ブランドのこだわりや製作の裏側を詳しくお伺いすることにしました。
アートディレクターの鬼塚さんは、メンバーの描いた絵が洋服やアクセサリーになるまでの製作に関わっています。展示会場にある商品について、そのこだわりや魅力を教えてくれました。
鬼塚さん:「このえだまめのスカートは、プリント生地のうえにシルクスクリーンを重ねているので、動いた時にきらきらと動きが出るんです」
鬼塚さん:「いえ、これはピザなんだと作者がおっしゃってました。ちょうどこれを描いているとき、すごくピザが食べたい気分だったみたいです(笑)」
「たいせつプロダクト」のスタッフは「あいあいエクスプリモ」に参加し、メンバーが描くのを手伝いながら、イラストを生かすデザインを考えます。
そのイラストは洋服で大きく見せたほうが良いのか、小物にしたほうが生きるのか。色よりも形がおもしろいと感じれば、あえて一色の刺繍にすることもあります。
鬼塚さん:「完成したイラストだけを渡されてもデザインはできません。作者といっしょに描く時間を共有するからこそ、アイデアが浮かぶんです。」
「あいあいエクスプリモ」では、メンバーの一人ひとりが好きなものや得意なことを生かした表現活動をします。
鬼塚さん:「その方がまるをかくのが好きだったらまるいモチーフ、動物が好きだったら動物のモチーフを持って行きます。水彩が得意、マーカーが得意というのも人それぞれあるので、一人ひとりにあった画材で描いてもらっていますね。」

マーカーでまるを描くことが大好きなメンバーの描いた、ボタンのイラスト
「障がい福祉サービス事業所 愛」のメンバーの中には思うように身体を動かすことが難しい人もいますが、スタッフはその人ができることを大切に、表現をサポートします。
例えば、手を横に動かすことができる人の場合。途中で画材をペンや筆に持ち替えるようスタッフがサポートすることで、同じ動きの繰り返しでもさまざまな線を重ねたアート作品が生まれるのだそうです。
田中さん:「描いているときは何ができるか、誰にもわかりません。ただそのとき描きたい気分のものを表現してもらいます。」

田中さん:「この作者は、おすしが食べたい気分だったんでしょうね(笑)」
メンバーの、アート活動に参加する姿勢も人それぞれ。
田中さん:「少ししか席につかない方も、ずっとおしゃべりしてる方もいます。話しかけないでというオーラを出して、黙々と集中して描き続ける人もいます。
私たちは、相手が困っているときに察知してお手伝いをするだけ。干渉しすぎず、信頼してお任せするようにしています。」
障害のある作者の一人ひとりが、自分を大切に、自分らしく表現すること。これが、プロダクトからあふれるエネルギーの源泉なのかもしれません。
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「たいせつプロダクト」には、他で買えないデザインとその背景にあるストーリーに魅了され、ファンになるお客さんも多数。
展示会にも、同ブランドのスカートを身に付けたお客さんが訪れました。以前に福岡の店舗で「たいせつプロダクト」に出会って以来のファンなのだそうです。
鬼塚さんがお客さんに、商品のこだわりや着こなしのポイントを紹介しています。イラストを描いた作者のことを生き生きと楽しそうに話す鬼塚さんにつられ、お客さんからも自然と笑みがこぼれました。
お客さん:「ここの洋服は一つひとつにストーリーがあるのが、いいですよね。いろいろなデザインのものを集めたくなっちゃいます」
田中さん:「“障害者アートだから”つくるわけでもないし、買っていただくわけでもありません。」
田中さん自身、「たいせつプロダクト」の運営に関わるようになったのは、もともと洋服が大好きで、同ブランドの洋服に惹かれ一緒につくりたいと思ったから。障害のある人たちがつくっていると知ったのはあとからだったといいます。
田中さん:「他のスタッフも、“洋服が大好き!”という人ばかり。作者の描いたイラストをただプリントするのではなく、“今までにない洋服をつくりたい“という、ものづくりへの強いこだわりがあります。だからこそ、洋服が大好きな人に着てほしいという思いも強いんです。」
障害のある作者が大好きなものを表現し、洋服が大好きな人がデザインに起こし、その洋服を気に入って身に付けたいと思った人が買う。
「たいせつプロダクト」には、関わる人全員が幸せになる循環がめぐっています。
「たいせつプロダクト」を、障害のある人と社会との接点に
最後に田中さんに、「たいせつプロダクト」のブランド名にこめられた想いを聞いてみました。
田中さん:「“たいせつな人へ たいせつな想いを込めて たいせつなものを贈る“というコンセプトで、ものづくりをしています。
私たちは、作者の方が表現した“たいせつなもの”を、洋服として届けるだけ。この素晴らしさをたくさんの人に伝えて、日常の中に取り入れてほしいと思います。」

田中さん:「スカートの柄にある色とトップスの色をそろえることが、着こなしのコツです」
田中さん:「“たいせつプロダクト”を通して、障害のある人と社会との“接点”を増やしていきたいんです。そのために、ブランドをもっと大きくしてより多くの人に知ってもらいたいと思います。」
「たいせつプロダクト」の洋服やアクセサリーを身に付けるとき、そのイラストを描いた作者のことを思い浮かべるかもしれません。「それかわいいね!」と気づいてくれた人に、作者や福岡にある事業所のことを、話すかもしれません。
描く人からつくる人へ、つくる人から買う人へ。そして、買った人から描いた人へ。
障害のある人が自分らしく表現したイラストが、その作者と社会をつないでいます。
「たいせつプロダクト」は現在、福岡三越で直営店を運営するほか、オンラインストアでの商品販売も行なっています。たいせつな想いのこもった商品をぜひ、のぞいてみてください。