高次脳機能障害とは?手帳は取れる?原因や症状、リハビリの方法について解説します
更新 2025/05/02
公開 2019/07/22
更新 2025/05/02
公開 2019/07/22
高次脳機能障害とは、脳卒中や交通事故などによる脳の損傷が原因で言語や記憶、情緒といった認知機能(神経心理学的機能)が失われたり低下してしまったりする障害です。外見からは症状が分かりにくく「見えない障害」とも言われますが、適切なリハビリテーションを行うことで症状改善が期待できます。この記事では、高次脳機能障害の具体的な症状やリハビリテーションの種類、利用できる福祉サービスなどを紹介します。
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脳卒中や交通事故などによる脳の損傷が原因で、脳の機能のうち、言語や記憶、注意、情緒といった認知機能(神経心理学的機能)が失われたり低下してしまったりする障害です。
高次脳機能障害は外見からは分かりにくく、けがや事故から実際の生活に戻って初めて問題が顕在化することが少なくないため、「見えない障害、隠れた障害」などとも言われます。脳の損傷というと「もう良くならない」と思ってしまいがちですが、適切なリハビリテーションを行うことで、症状の改善が期待できます。
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高次脳機能障害の症状は大きく4つのタイプに分けられ、以下のようなものがあります。
さっき言われたことを忘れてしまう。
どこに物を置いたのかを忘れる。
新しいできごとを覚えられない。
同じことを何度も質問する。
ぼんやりしてしまい、ミスが増える。
ふたつのことを同時に行うことが難しい。
作業を長く続けられない。
自分で計画して実行することができない。
人に指示してもらわないと行動できない。
約束の時間を守って行動ができない。
怒りっぽく、暴力を振るう。
思い通りにならないと大声を出す。
人への気遣いが乏しく、自己中心的になる。
高次脳機能障害を引き起こす最大の原因は脳卒中(脳血管障害)です。脳梗塞や脳出血、くも膜下出血が当てはまります。そのほか、交通事故などによる脳外傷も原因になることが多いです。
人の脳は大脳・小脳・脳幹で構成されており、そのうち大脳が損傷することで高次脳機能障害が起きる可能性があります。生命の維持に必要な最低限の機能を脳幹が担っているのに対し、大脳は高度で複雑な機能を担っています。
ミスをしないよう注意を払う
行動の抑制や計画
言語の表出
などの機能を担っており、前頭葉が損傷することで、それらの機能に障害が起きるのです。
ただ、脳は全て綿密につながっているため、側頭葉の部分が損傷した場合でも、前頭葉の機能に障害が出ることもあります。
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高次脳機能障害の診断は、脳損傷の後遺症診断の経験が豊富な脳神経外科や神経内科、リハビリテーション科、精神神経科のある病院で行うことができます。
高次脳機能障害を診断する際には、脳に何らかの外傷があるかどうかを調べます。主にCTやMRI、脳の血流の変化を確認する「脳血流検査」などの画像診断が行われます。それに加えて、意識障害の有無のチェック、神経心理検査なども行います。
ただ、事故直後などの急性期(初期)では、細胞をつなぐ神経の切断といったような細かい損傷は画像では確認できないことがあります。特に異常なく退院した人が仕事に復帰した後、ぼんやりしたり記憶があいまいになったりする症状が見られ、再受診の結果、高次脳機能障害が判明することもあります。
発症した時期や症状によって、取得できる可能性のある障害者手帳が異なります。
例えば、WHO(世界保健機関)が定めた疾患の診断基準「ICD(国際疾病分類)」によると、
器質性健忘症候群、アルコールその他の精神作用物質によらないもの(F04)
脳の損傷及び機能不全並びに身体疾患によるその他の精神障害(F06)
脳の疾患、損傷及び機能不全による人格及び行動の障害(F07)
これらに該当する障害・疾患が原因となって症状が起きている人は、高次脳機能障害の診断対象になります。「脳血管障害による記憶障害」や「脳損傷による注意障害、遂行機能障害」といった場合です。
これらは「器質性(脳の変容による)精神障害」に分類されています。記憶障害や注意障害などの症状がある場合、精神障害者保健福祉手帳の取得が可能かもしれません。
一方で、手足の麻痺や音声・言語障害(失語症)があった場合は身体障害者手帳の申請対象になる可能性があります。また、発症が18歳未満で、自治体の機関において知的障害があると判断されたときには療育手帳(自治体により名称は異なる)の申請対象となります。 高次脳機能障害の原因となるような脳損傷が起きた場合、救急病院に搬送され、治療を受けることになるでしょう。急性期の治療が終わった後は、高次脳機能障害の評価や診断、症状に応じたリハビリテーションに移ります。
高次脳機能障害のリハビリテーションは、医師や看護師だけではなく、作業療法士(OT)や理学療法士(PT)、言語聴覚士(ST)やソーシャルワーカーなどそれぞれのリハビリプログラムの専門家がチームとなって実施していくものです。
機能回復を中心とする医療リハビリテーションは、6ヶ月から1年間続けることで効果が出ることが多いと言われています。その後は、必要に応じて生活・就労スキルを身に付ける「生活訓練リハビリテーション」「就労移行支援リハビリテーション」に移っていきます。
病院やクリニックで行われるリハビリテーションでは、症状ごとにさまざまなプログラムがあります。代表的なものは理学療法や作業療法、言語聴覚療法などですが、症状ごとに細かく見ていくと、以下のようなものがあります。
言葉を何度も繰り返す反復訓練
重要なものは常に同じ場所に置くなどの環境調整
視覚情報から言語をイメージしやすくする内的記憶戦略法 など
机上課題(ワークブックなど)
作業活動課題(組み立てキットなど)
日常生活動作課題(更衣訓練や家事など)
静かで疲れないような環境調整
励ましたり行動抑制に対価を与えたりする行動療法的対応 など
高次脳機能障害のリハビリテーションはどこで受けられる?
障害者総合支援法では、各都道府県に高次脳機能障害のある人を総合的に支援する高次脳機能障害者支援拠点が設置されることになりました。治療や医療リハビリテーションだけではなく、社会復帰に向けたリハビリテーションや就労支援、家族からの悩み相談など、さまざまな医療機関や支援機関が連携してサポートする仕組みになっています。
高次脳機能障害に関する相談窓口・医療機関は以下のリストから調べることができます。
高次脳機能障害のある人は、これまでと同じような生活が送れなかったり、仕事復帰が難しかったりすることがあります。そういったとき、例えば介護が必要な人の自宅にヘルパーが出向いて介護や家事援助などを行う「居宅介護(ホームヘルプサービス)」、仕事をするための体力や能力を養い、適性に合った職場への就労と定着を目指す「就労移行支援」などがあります。
生活支援や就労支援、施設入所支援など、社会復帰に至るまでに利用できるサービスは数多くあります。先ほど紹介した高次脳機能障害の支援拠点が各サービス提供機関と連携をしていることもあるので、必要としているサービスがあれば、相談してみましょう。
ある日言葉がうまく出なくなったり、新しいことが覚えられなくなったりと、それまでの生活が一変してしまうような変化が自身に起きたら大きな不安を抱えるでしょう。ただ、高次脳機能障害は適切なリハビリテーションを続ければ、症状を改善させ、自身の生活を確立していくことが可能です。
できることを一つひとつ増やしていき、能力を伸ばしていくリハビリテーションは短期間では実現しません。主治医や家族はもちろん、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士やソーシャルワーカーといった専門家の協力を仰ぎながらリハビリテーションを進めていきましょう。
監修 : 橋本圭司
医学博士、リハビリテーション科専門医
東京都リハビリ病院、神奈川リハビリ病院、慈恵医大附属病院などで高次脳機能障害の治療を経験。
2009年国立成育医療研究センター医長、2016年はしもとクリニック経堂院長。
執筆 : LITALICO仕事ナビ
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