アスペルガー症候群の人の仕事、生じやすい困りごとや解決方法は?適職はどうやって見つける?

2018/03/26
アスペルガー症候群には、社会性やコミュニケーション能力、想像力に偏りが生じる特性があります。アスペルガー症候群の人が仕事を探す場合、これらの特性を活かすことのできる仕事が適職となります。この記事では、アスペルガー症候群の人の仕事の探し方や、仕事上で直面しがちな困りごとや対策などを紹介します。

目次

  1. アスペルガー症候群とは
  2. アスペルガー症候群の症状
  3. アスペルガー症候群の人に向いている仕事と向かない仕事
  4. アスペルガー症候群の人の仕事の探しかた
  5. アスペルガー症候群の人が仕事で直面しやすい困りごととは
  6. アスペルガー症候群かな?と思う人が職場にいたら
  7. 「合理的配慮」という概念について
  8. まとめ

アスペルガー症候群とは

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アスペルガー症候群は、「対人関係の障害」「コミュニケーションの障害」「パターン化した興味や活動」の3つの特徴を持ち、言葉の発達の遅れや知的発達の遅れがない場合を指す、発達障害のひとつです。

発達障害とは、生まれつきの脳機能の発達のアンバランスさ・凸凹(でこぼこ)と、その人が過ごす環境や周囲の人とのかかわりのミスマッチから、社会生活に困難が発生する障害のことです。

アスペルガー症候群は、アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では「自閉症スペクトラム」として分類されています。これは、イギリスの精神科医ローナ・ウイング(以下:ウイング)が主張した「自閉症とアスペルガー症候群は、同じ特徴を持つスペクトラム(連続体)である」との概念に基づいています。

アスペルガー症候群の原因

発達障害は症状が多様であり、そのため原因も複雑で、すべての方にあてはまる単一の原因はないといわれています。

現在有力視されているのは、「遺伝的要因と環境要因が相互に影響しあって発達障害の症状が表れる」という説で、「親のしつけ方・育て方が悪い」「親の愛情不足」といった心因論は現在では医学的に否定されています。

アスペルガー症候群が起こる原因は完全には解明されていませんが、先天的な脳機能の不均衡により脳全体のネットワークに影響が生じ、独特の特性があらわれると考えられています。

アスペルガー症候群の症状

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ウイングは、以下のようなアスペルガー症候群の特徴的な3つの症状を挙げ、「3つ組の障害」と定義しています。

「3つ組の障害」1:社会性の障害

一般的にアスペルガー症候群の人は、社会的関係の構築が難しい傾向にあるとされています。相手の気持ちを想像したり、場で暗黙のうちに共有されている「空気」を読んだり、自分の感情を表現することが求められるような場面で、うまく立ち居ふるまえていないと周囲から見られがちです。しかし、アスペルガー症候群の当事者は、人とうまく付き合えないという自覚こそあっても、具体的にどうしたらいいか判らない場合が多いのです。

社会性の障害の表れ方には、さまざまな形があります。ウイングは、社会性の障害の表れ方を以下の4タイプに分類しています。
  • 孤立タイプ(例:一人でいることを好む)
  • 受動タイプ(例:自分からは他人と関わろうとしない)
  • 積極・奇異タイプ(例:他人に積極的に近づくが、自分の関心ごとを一方通行で話す)
  • 形式ばった大仰なタイプ(例:過度に礼儀正しい)

「3つ組の障害」2:言語コミュニケーションの障害

アスペルガー症候群の人は、口調や声量の調節が苦手であったり、無表情で抑揚のない声で話したり、書き言葉や古風な言葉を使って話すことがあります。また、曖昧な表現やお世辞、皮肉などを理解することが困難で、相手の言葉を文字通り受け取ってしまう傾向があります。 このため、他人との意思疎通がうまくいかないことがあります。

「3つ組の障害」3:想像力の障害

アスペルガー症候群の人は決められた手順や自分の興味ある事柄、活動などに強くこだわり、予想外の事態への臨機応変な対応が苦手である傾向があります。このため、状況にあわせたふるまいができなかったり、予定外の事態に対して柔軟に対応することに困難が生じることがあります。また、気持ちの切り換えや発想の転換も苦手です。

したがって、物事の手順や配置場所、自分なりのルールにしばしば強いこだわりを持ち、周囲のルールとはずれることもあります。しかしこだわりの強さが、他人の想像力の範囲を超えるほどのユニークさを持つこともあります。自分が興味を持つ事柄への情熱や知識が突出してあらわれる場合もあるのです。

アスペルガー症候群で起こり得る二次障害

アスペルガー症候群の人が、成長していくなかで失敗や生きにくさを感じる経験を繰り返したり、理解のない環境下でストレスが蓄積されていくうちに、心身の症状が悪化してしまうことがあります。発達障害に起因する心身の症状や状態のことを一般的に二次障害と呼びます。

二次障害には、うつ病や強迫性障害、統合失調症や摂食障害、睡眠障害やフラッシュバックなどの症状があります。二次障害の症状が重く、生活に支障のある場合は、薬物療法や症状に合わせた心理療法、別途治療が必要な場合があります。
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アスペルガー症候群の人に向いている仕事と向かない仕事

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アスペルガー症候群の人は、得意なことと苦手なことの差が大きい傾向にあります。このため「向いている仕事」と「向いていない仕事」が明確に分かれ、向いていない仕事に就いた場合は転職を繰りかえすことになることも珍しくありません。安定して仕事を続けていくには、まず自分の特性を理解することが重要となります。

アスペルガー症候群の特性

アスペルガー症候群では、3つ組の障害と関係して、実際の行動面で得意なことや苦手なことがあります。このような行動面での特徴を「特性」と呼びます。特性を活かすことのできる職業が、アスペルガー症候群の人にとっての適職であると言えます。

特性の表れ方には個人差がありますが、一般的には、アスペルガー症候群の特性と、向いている職種や向いていない職種は以下のようにいわれいます。

アスペルガー症候群の特性1:記憶力に優れる

一般的に定型発達の人は幼少期には地名や人名など、反復して脳に刷りこむことで覚える「単純記憶」を得意としますが、成長にしたがってそれらが苦手となっていきます。だんだんと、単語や物事をエピソードに結びつけて覚える「イメージ記憶」の方が得意になっていきます。しかしアスペルガー症候群の人には、大人になっても単純記憶に優れている傾向があります。

アスペルガー症候群の特性2:特定の事柄に強い興味を持つ

アスペルガー症候群の人は、特定の事柄に強い興味を持つ傾向があります。興味を持つ事柄に対する好奇心や探究心は人一倍強く、とことん追求するため、深い知識を持っていることも珍しくありません。ただし興味を持つ範囲は狭くなりがちで、全体像をとらえることは苦手な傾向にあります。

アスペルガー症候群の特性3:集中力に優れる

アスペルガー症候群の人は、自分が興味を持つ事柄に対しては、他の人にはない集中力を発揮して取り組む傾向にあります。他の人が音をあげがちな根気や緻密さを要する作業にも、持ち前の集中力を発揮して最後まで取り組むため、大きな業績を成し遂げることがあります。

アスペルガー症候群の特性4:独特の想像力や感性を持つ

アスペルガー症候群の特性のなかに、感覚過敏・鈍麻があります。聴覚や視覚が敏感なために日常生活で困難が生じることもありますが、裏返せば「独特の想像力や感性を持っている」ということでもあります。アスペルガー症候群の人の中には、音楽や芸術、文学などの分野で自らの感性を発揮している人もいます。

また、感覚鈍麻(感覚の鈍さ)によって、空腹の感覚が乏しく食事をたびたび忘れてしまったり、疲れているという感覚がわからないため、思いがけないタイミングで寝込んでしまったりといった場合があります。

アスペルガー症候群の人に向いている職種

これらの特性から、アスペルガー症候群の人に向いている職種は、作業の大部分をひとりでおこなう仕事や、論理的分析力・事実に関する記憶力を生かすような仕事、単純作業の反復や、部品等の管理や整理などに関するものであると言えるでしょう。具体的には、以下のような職種が挙げられます。

しかし、アスペルガー症候群のひとが上記のすべての特徴をもっているわけではなく、特性は一人一人異なります。また、実際に働く上では、職種だけでなく、職場での人間関係や業務上のコミュニケーションの方法など、職場環境の違いによって働きやすさがも変わってきます。

以下の職種はあくまで一例として参考にし、実際の仕事選びに際しては、具体的な職場環境や業務内容も踏まえて選択できると良いでしょう。
  • コンピューター・プログラマー
  • ウェブデザイナー、ゲームデザイナー、CGアニメーター
  • 広告デザイナー、工業デザイナー
  • 建物や工場の設備整備
  • エンジニア
  • カメラマン、ジャーナリスト、校正者
  • 翻訳者、通訳者
  • 動物調教師、楽器の調律師
  • 事務、書類管理
  • 研究者、技術者、学者、アナリスト

アスペルガー症候群の人が苦手なこと

アスペルガー症候群の人は、「3つ組の障害」や特性のために、以下のようなことを苦手とするケースが多いようです。
  • 言葉の裏にある相手の真意を読み取る
  • お世辞を言う
  • 予定の急な変更への臨機応変な対応
  • 身だしなみに気を配る
  • 集団行動をとる
  • 複数の業務を同時進行させる
  • 感覚の過敏性

アスペルガー症候群の人に向かない職種

アスペルガー症候群の人が苦手とすることを踏まえると、以下のような職種は、アスペルガー症候群の人には向いていないと考えられます。(しかし、特性のあらわれ方は人それぞれ違います。以下のような職業についている方で、かつアスペルガー症候群である場合にも、その世界で活躍している人が存在している可能性はあります。)
  • 接客業、営業職、受付係、電話オペレーター(柔軟な対人スキルが必要)
  • レジ係(短時間で多くの処理をおこなう必要がある)
  • 料理人、ウェイター・ウェイトレス(複数の注文を同時進行で処理する必要がある)
参考 : 上野一彦 「図解 よくわかる 大人の アスペルガー症候群」

アスペルガー症候群の人の仕事の探しかた

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就職活動は誰にとっても難しいものですが、アスペルガー症候群の人にとってはさらに困難となりがちです。多くの情報を整理し、無数の選択肢のなかから適職を見きわめ、就労への具体的な道筋を作っていく過程には、アスペルガー症候群の人が苦手とする要素が多く含まれているためです。

この章では、アスペルガー症候群の人が仕事を探すときの方法を、仕事の探し方別に解説します。

状況別・仕事の探しかた1: 仕事を探すタイミング

アスペルガー症候群の人が仕事を探すタイミングは、初めて就職する場合と、転職や再就職の場合に分かれ、それぞれの場合で事情が異なります。

高校・専門学校・大学等卒業後の、初めての就職活動の場合

初めて就職活動をおこなう場合は、自分の特性や適性を知ることがもっとも重要です。特性や適性に合う仕事に就くことで、アスペルガー症候群の特性を「自分の強み」として活かすことができるためです。

また、アスペルガー症候群の特性の表れ方には個人差があります。自分の特性や感覚の敏感性についても把握し、職種選びの際に考慮しましょう。

転職や再就職の場合

転職や再就職の場合には、以前の職場でうまくいかず、二次障害が表れていることがあります。二次障害があるということは、社会生活のなかでの自分の特性の折り合いのつけかたをまだ理解していないということでもあります。この場合は、まず医療機関を受診して心身の症状を改善したり、就労支援機関にてソーシャルスキルについてのアドバイスやトレーニングを受けることが有効です。

状況別・仕事の探しかた2:福祉サービスを利用した就職活動

アスペルガー症候群の人が就職活動をおこなう方法には、自力で就職活動をおこなう方法と、就労移行支援等の福祉サービスを利用して就職活動をおこなう方法の2通りがあります。

就労移行支援等の福祉サービスを利用しての就職活動の場合

適職にたどり着くための方法のひとつに、就労支援サービスの利用があります。発達障害の人が就労に際して支援を受けたいとき、主に以下の福祉サービスを利用することができます。

①就労移行支援

一般企業への就労を目指す障害や疾患のある方が、働くための知識や能力を身につけることができる就労支援サービスです。事業所によってサービス内容は異なりますが、主なものは職業訓練、就職活動のサポート、職場定着支援の3つです。
職業訓練ではビジネスマナーやコミュニケーショントレーニング、パソコントレーニングなどを行い、就職活動のサポートとしては面接の練習や履歴書の書き方指導などを行います。そして、無事に就職した後もスタッフが職場定着支援を実施。就職前から就職後まで、一貫してサポートしてくれるのが特徴です。

学校のように、毎週決まった日時に事業所に通って利用することになります。働いている場合は利用できません。利用する場合は市区町村の障害福祉窓口で申し込みをします。LITALICO仕事ナビでは全国の就労移行支援事業所を掲載しており、ご自身にぴったりの事業所を探すことができます。
就労移行支援事業所を探してみよう

②発達障害者支援センター

各都道府県に設置されている発達障害者支援センターは、生活面や教育・治療など、発達障害に関するさまざまな悩みの相談に対応しています。仕事の悩みに関する相談への対応や就労支援もおこなっており、発達障害の診断を受けていない人も利用可能です。

③若者サポートステーション

若者サポートステーションは、進路について迷っている若者の生活全般についての支援をおこなう機関であり、就労に関するアドバイス等の支援を受けることができます。発達障害に詳しいスタッフがいる支所もありますが、発達障害専門の機関ではないため、発達障害への対応はおこなっていない場合もあります。

④障害者職業センター

全国52か所に設置されている障害者職業センターでは、発達障害を含めた障害者の就職の相談や支援をおこなっています。ハローワークや、障害者雇用をおこなっている企業と連携しており、障害の特性に合う就職の提案をおこなっています。障害の診断がない人や、障害者手帳を取得していない人でも利用可能です。

自力での就職活動の場合

アスペルガー症候群の人が自力で就職活動をおこなう場合は、自己の特性を理解したうえで特性に合う職種を探し、企業などに応募します。しかし自己の特性や適性、能力を自分で客観的に評価するのは難しいものです。このような場合は、友人や家族などの身近な人に意見を聞くことが、自己特性を理解する一助となります。

状況別・仕事の探しかた3:就職先の種類

発達障害の人の働き方には、一般企業などで就労する「一般就労」と、「就労継続支援事業所」での就労の2通りの方法があります。

企業等での一般就労では、障害者手帳を取得し、大企業やその系列会社の障害者雇用枠を利用して就労する方法(オープン就労)と、障害者としての保護や支援を受けずに企業などの一般枠で就労する方法(クローズ就労)があります。一般枠での就労では、「アスペルガー症候群の特性への配慮や支援がなくとも、企業が求める職務を遂行できる能力がある」ことが前提となります。

特例子会社での就労

障害のある人の雇用促進を目的に設けられた、企業の特例子会社で働くこともできます。応募できる求人数は一般就労に比べて少ないものの、一定の支援を受けながら働くことができます。

就労継続支援事業所での福祉的就労

就労継続支援とは、障害や疾患に関するサポート環境を整備して、安定的に働くことができる職場を提供する福祉サービスです。
このうち就労継続支援A型は、比較的一般就労に近い職場環境で、障害や疾患などに理解のある職場スタッフのサポートを受けながらの安定的な就労が期待できます。事業所と雇用関係を結んだ上で働くので、給料は最低賃金額以上が支払われます。業務内容は事業所によりさまざまですが、喫茶店のホール業務やパソコンデータの入力代行などがあります。

就労継続支援B型は、年齢や体力、症状の面で一般就労が困難な方を対象にしていて、1日1時間から、1週間に1日からといった短時間で働くことが可能な事業所が多いです。作業内容は軽作業が多く、事業所と雇用契約を結ばないため、賃金ではなく、生産物に対する成果報酬の「工賃」が支払われます。工賃は最低賃金を下回ることが多いですが、自分のペースで働くことができます。
就労継続支援事業所(A型B型)を探してみよう

障害者手帳について

障害のある人は、障害者手帳を取得することで、支援制度を利用したり、障害者雇用枠への応募が可能となります。発達障害には発達障害者専用の手帳制度はありませんが、障害者基本法の改定により、法律上の分類としては発達障害が精神障害に含まれることとなったため、発達障害者も精神障害者保健福祉手帳が取得可能となりました。

ただし、アスペルガー症候群であればかならず精神障害者保健福祉手帳が取得できるわけではなく、日常生活での困難の度合いが大きい場合などに交付されるケースが多いようです。

詳しくはお住まいの地域の自治体や発達障害者支援センターなどにお問い合わせください。
参考 : 一般社団法人 日本自閉症協会 「発達障害者支援センター一覧」
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状況別・仕事の探しかた4:アスペルガー症候群であることをオープンにしての就労か、クローズでの就労か

アスペルガー症候群の人が就職するとき、「アスペルガー症候群であることを周囲に知らせる形で就労するのか、伝えずに就労するのか」という選択に直面します。

個々のケースで事情が異なるため、この場合に「正しい選択」というものはありません。大事なのは、選択によって状況が変わってくることをあらかじめ理解した上で、どちらにするのかを決めることです。

オープン就労のメリットとデメリット

アスペルガー症候群であることを事前に就職先に伝えて就労する「オープン就労」のメリットは、アスペルガー症候群の特性に対する配慮を受けやすく、かつ残業や異動についても考慮してもらいやすいといえます

一方デメリットは、軽作業や事務などに職種が限られる場合もあることや、契約社員としての採用が多く、昇給やキャリアアップ等の機会が比較的少ない傾向にあることです。もちろん、オープン就労の場合でも、さまざまな仕事に挑戦できたり、正社員としての入社・登用が行われるケースはあるので、あくまで傾向としてとらえておくと良いでしょう。

クローズ就労のメリットとデメリット

アスペルガー症候群であることを就職先に伝えずに就労する「クローズ就労」では、職種や給与条件などの選択肢が多くなり、昇進や昇給の機会も多くなりやすいことがメリットです。

しかしアスペルガー症候群の特性が強くあらわれている場合でも、そのことを周囲に共有していないために、職場で特性への配慮を得ることが難しく、残業や異動、転勤なども一般社員と同じように要求される点がデメリットとなることがあります。

オープン就労の場合、どう伝えるのか

アスペルガー症候群の症状や特性が強くあらわれている場合は、アスペルガー症候群であることを就職先に伝えたほうが良いかもしれません。

発達障害の概念は近年、一般にも周知されてきましたが、その症状や特性についての理解が深い人はまだ少ないのが現状です。アスペルガー症候群であることを就職先に伝える場合は、アスペルガー症候群の一般的な症状だけでなく、自分自身の特性や想定される困りごとについても具体的に説明しましょう。

また、症状や特性は「弱み」と捉えられがちですが、他の人にはない強みとなる場合もあります。自分の強みでできる貢献についても、ぜひ伝えましょう。

アスペルガー症候群の人が仕事で直面しやすい困りごととは

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アスペルガー症候群の症状や特性からくる言動は、周囲の人に理解されないことがしばしばあります。アスペルガー症候群の人にとっては当たり前である以下のような言動は、周囲の人に戸惑いや誤解を与えているかもしれません。
  • 身だしなみに無頓着
  • 先輩社員の助言を受け入れない
  • きれい好きが高じ、オフィスの掃除や整理に没頭し仕事にならない
アスペルガー症候群の人は、一度決めたルールを守ろうとします。このため、同じ洋服や季節外れの洋服を着てきたり、先輩社員の助言よりも自分のルールを優先したり、掃除や整理に没頭するため「変わった人」と思われてしまうことがあります。
  • 見通しを立てるのが苦手なため期日を過ぎてしまう
  • 上司や取引先の相手に敬語を使わない
  • 自分のミスを認めず、謝らない
アスペルガー症候群の人は、社会で暗黙のうちに「常識である」とされていることを理解するのが苦手です。遅刻や無断欠勤が多かったり、誰にでも敬語を使わずに自然に話しかけたり、「自分に悪気はなかった」という思いから、ミスをしても謝らなかったりすることがあります。この結果、「非常識な人」というレッテルを貼られてしまうことがあります。
  • 話が長い/話に脈絡がない
  • 冗談が通じない
  • 思ったことを率直に言い過ぎる
アスペルガー症候群の人のコミュニケーションの仕方には、独特の傾向があります。例えば一生懸命に伝えたいあまり、相手の反応を気にせずに延々と話し続けてしまうことがあります。

また、言葉を文字通りに受け取ってしまうために冗談が通じなかったり、言わない方が良いことも相手に率直に言ってしまったりします。このため「気づいたら、周囲の人から避けられている」という状況になることがあります。

身だしなみや敬語については「仕事のルールの一環」と考え、シチュエーションごとの対応を丸暗記してしまう方法もあります。身だしなみについては、家族や周囲の人にアドバイスをもらっても良いでしょう。

アスペルガー症候群かな?と思う人が職場にいたら

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アスペルガー症候群の人や、アスペルガー症候群を思わせる言動をする人が職場にいるときは、どのような対応をおこなうと良いのでしょうか?

職場で困りごとがあるとき、アスペルガー症候群の人はしばしば葛藤や苦手意識、孤立感などを感じています。同時に周囲の人も、アスペルガー症候群の人の言動に対して、戸惑いや苛立ちを蓄積していることがあります。

しかし「あなたはアスペルガー症候群だと思うから病院に行ったほうがいいよ」とはなかなか言えません。もし、そのような疑いがある人が周囲にいたら、先ずは本人の困り感の原因に寄り添いながら、病院の診断なしでも受けることのできるアスペルガー症候群の方向けのケアやアプローチを一緒に探ってみましょう。

心身の不調に関しては、社内の専門家(産業保健スタッフやメンタルヘルス対策を推進する部署)があればそこに相談してみましょう。

アスペルガー症候群の人が職場にいるときに起こりうる困りごとと対応の仕方

アスペルガー症候群の人が職場にいるときに起こりうる困りごとと、それに対する適切な対応の仕方には、以下のようなものがあります。

ミスをしても報告しない・謝らない人への対応

アスペルガー症候群の人はミスを起こした時、報告をすることや謝ることが苦手なことがあります。これは、「自分はルールに沿って業務を進めた」という思いがあり、意図していなかった結果となったことに納得がいかないためです。

このような傾向がある人には、まずはミスが起きた原因や状況、どうして謝らなければならないのかを上司と話し合って理解してもらう必要があります。そうなってしまった経緯を紙に書いて把握してもらうことも手立ての一つでしょう。まずは状況を整理して納得してもらうことが大切です。

そうすることができれば、仮にこの先業務の進行について迷ったときも、誰に/どのように相談すればいいか可視化できているため本人から相談をあげてもらう可能性を増やすことができるでしょう。

「社会性に乏しい」ように見える言動のある人への対応

遅刻や無断欠勤が多かったり、身だしなみや敬語に無頓着な人がいる場合は、本人と話し合い、これらの「常識」は、社会生活を送るうえで重要な要素であることをしっかりと説明し、理解してもらう必要があります。

アスペルガー症候群の人は常識に欠けるのではなく、現在まで他のやり方を知らずに過ごしてきただけなのです。このため、社会性を身につける必要性を理解し、規則や規定の具体的な提示があれば、アスペルガー症候群の人も対処することができます。上司などが率先してお手本を見せるとなお良いでしょう。

体調不良を訴える人への対応

アスペルガー症候群の特性のひとつに、視覚や聴覚、嗅覚や触覚、平衡感覚などの感覚の敏感性があります。多くの人にとっては気にならない職場の光や音、匂いなどをアスペルガー症候群の人は大きなストレスに感じ、心身の症状が出ることもあります。この場合、周囲の人の目には「常に体調不良を訴えている」と映ります。

この場合は、アスペルガー症候群の人と話し合い、デスクの位置を変えるなど、職場の環境を可能な範囲で整えると良いでしょう。
参考 : 宮尾益知、滝口のぞみ 「部下がアスペルガーと思ったとき上司が読む本」

「合理的配慮」という概念について

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職場でアスペルガー症候群の人に対して対応をおこなうときに役立つ概念に「合理的配慮」があります。

2016年4月に施行された障害者差別解消法と障害者雇用促進法には、日本の従来の法制度には存在しなかった「合理的配慮」という概念が導入されています。これらの法律では行政機関や民間事業者に対し、障害者に対する合理的配慮の提供を求めています。

合理的配慮とは何か

合理的配慮とは、障害のある人が何らかの配慮を必要としているとき、「困っています」という意思表示をすることで、周囲の人が「負担が大きすぎない範囲」で対応することを指します。合理的配慮の目的は、障害のある人が社会で生活していくうえで、平等な機会を得ることです。

合理的配慮では「障害者の個々のニーズを満たす」および「非過重負担」の2つの条件を満たす必要があります。例えば、職場の建物がバリアフリーになっていることは、合理的配慮にはあたりません。合理的配慮とは、一方的な「思いやり」に基づいて、あるいは障害者全般に対して一律な対応をおこなうことではありません。

「障害者の個別のニーズに応じて、負担が過重とならない範囲でルールを柔軟に変更することで、障害者が生活していくうえでの支障をなくす」ことが合理的配慮なのです。

アスペルガー症候群の人への合理的配慮の具体例

アスペルガー症候群と思われる人が職場にいる場合、以下のような合理的配慮を提案し、実行し、問題解決できる可能性があります。
  • 抽象的・婉曲的な表現ではなく、単純化した具体的な表現を用いて指示を出す(抽象的・婉曲的な表現を理解しにくい特性への配慮)
  • 業務の指示をまとめてではなく、ひとつずつ出す(複数のタスクを同時進行することが苦手な特性への配慮)
  • 作業手順について、文字や図を活用したマニュアルを作成する(視覚情報を理解しやすい特性への配慮)
  • 複数の人が指示を出すのではなく、指示や相談の窓口となる特定の人を「担当者」として定める(対人関係そのものを苦手に感じていることがあるため)
  • 昼休みや業務終了後、無理に食事に誘わない(コミュニケーションが苦手な特性への配慮)
  • 残業依頼などの予定の変更については、余裕を持ってなるべく早い段階で説明し、納得してもらう(想定外の事態への臨機応変な対応が苦手な特性への配慮)
ただし合理的配慮の提供は、本人の申し出があることが前提となります。アスペルガー症候群の人が望む配慮について、本人と職場の人が話し合う機会を持つことができれば理想的です。
参考 : 朝日雅也、笹川俊雄、高橋賢司 「障害者雇用における合理的配慮」参考 : 川島 聡、飯野 由里子、西倉 実季、星加 良司 「合理的配慮 -- 対話を開く,対話が拓く」

まとめ

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アスペルガー症候群には「3つ組の障害」がある一方、優れた記憶力や集中力などの特性もあります。特性を活かすことのできる仕事に就き、活躍している人たちもいます。

アスペルガー症候群の人は、過去に適職に出会えず、辛い経験をしてきた人も少なくありません。しかし周囲の人の理解と支援があれば、アスペルガー症候群の人は働きやすくなります。特性や適性に合う仕事に就いたあとも、周囲の人と協力して、より働きやすい仕事環境を作っていきましょう。
監修 : 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
応用行動分析学
自閉症支援士エキスパート
LITALICO研究所 客員研究員

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