大人のアスペルガー症候群とは?対人関係やコミュニケーションはどうする?職場での困りごととは?家族や同僚の関わり方などを解説します

2018/03/26
アスペルガー症候群は、発達障害のひとつで、コミュニケーション能力などに偏りが見られるという特性があります。この記事では、アスペルガー症候群の人が職場や恋愛などで直面しがちなトラブルと、それらに対する対策について解説します。

目次

  1. アスペルガー症候群とは
  2. アスペルガー症候群の症状
  3. アスペルガー症候群の特性
  4. アスペルガー症候群で起こり得る二次障害
  5. アスペルガー症候群かな?と思ったら
  6. アスペルガー症候群の治療法は?
  7. 大人のアスペルガー症候群の人はどんな支援が受けられるの?
  8. アスペルガー症候群の人が苦手なことと対処法
  9. アスペルガー症候群の人の仕事
  10. アスペルガー症候群の人に周囲の人はどう接すれば良い?
  11. 家族や恋人、配偶者がアスペルガー症候群だったら
  12. まとめ

アスペルガー症候群とは

出典 : amanaimages
アスペルガー症候群は、「対人関係の障害」「コミュニケーションの障害」「パターン化した興味や活動」の3つの特徴を持ち、言葉の発達の遅れや知的発達の遅れがない場合を指す、発達障害のひとつです。

発達障害とは、生まれつきの脳機能の発達のアンバランスさ・凸凹(でこぼこ)と、その人が過ごす環境や周囲の人とのかかわりのミスマッチから、社会生活に困難が発生する障害のことです。

厚生労働省はアスペルガー症候群を「広い意味での『自閉症』のひとつのタイプ」であると定義しています。自閉症の「対人関係の障害」「コミュニケーションの障害」「パターン化した興味や活動」の3つの特徴のうち、アスペルガー症候群では「対人関係の障害」と「パターン化した興味や活動」の2つの特徴がありますが、言葉の発達の遅れや知的発達の遅れはありません。

アスペルガー症候群の発生率は約4,000人に1人程度であるといわれています。
参考 : アスペルガー症候群について 「厚生労働省HP」参考 : 自閉症について 「厚生労働省HP 」

「自閉症スペクトラム」という新概念とアスペルガー症候群の関係

アスペルガー症候群は、2013年に公開されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では、「自閉症スペクトラム」として分類されています。

「スペクトラム」とは、「連続体」という意味で、イギリスの児童精神科医ローナ・ウイングが提唱し、現在は国際的な概念となっています。

「自閉症スペクトラム障害」は、広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders:略称PDD)とほぼ同じ群を指します。自閉症やアスペルガー症候群、そのほかの広汎性発達障害を含み、症状の強さにより診断名が分かれます。

自閉症スペクトラム障害に含まれる症状はどれも「本質的に同じ特性を持ち、特性の程度は異なるものの、境界線のないひとつの群に属する障害である」とすると捉え、かつ「診断名」は、医学的な対応のために必要となるものであるので、幅を持たせて分類されているのです。

DSM-5はこの考え方にもとづき、アスペルガー症候群を「自閉症スペクトラム障害」に分類しています。

DSM-5は、精神障害の診断における国際的なマニュアルとして使われています。このため、日本の病院でも今後は「アスペルガー症候群」との診断は減り「自閉症スペクトラム」名での診断が増えていく可能性があります。

しかしDSM-5の他にもう1つ、アスペルガー症候群の診断分類として用いられている国際的な診断基準が存在します。それは世界保健機関(WHO)の『ICD』(『国際疾病分類』)で、日本の医療機関のほか、日本の行政機関でも採用されています。つまり現在、多くの日本の医療機関は、DSM-5にもとづいて診断を行うところと、ICDにもとづくところに分かれているのが現状です。

現在のICDでは「自閉症スペクトラム」という概念は採用されておらず、「アスペルガー症候群」という診断名が使われています。

日本の行政機関は、ICDによる診断分類を採用しています。このため、障害年金や精神障害者保健福祉手帳など、福祉制度に関する申請書に添付が求められる診断書には、ICDで各疾病に付与されている「ICDコード」が記載されていることが必要となります。

※今回の記事で表記する「アスペルガー症候群」という文言は、上記の内容を含め広義の意味をさします。

アスペルガー症候群の原因

アスペルガー症候群の原因は、はっきりとは解明されていません。先天的な脳の機能不全が原因であると考えられていますが、脳の機能不全が起こる理由も不明です。

遺伝子が原因に関係することはわかっていますが、それだけが唯一の原因ではなく、さらになんらかの外的要因も加わった場合にアスペルガー症候群が起こるとする仮説が有力です。

アスペルガー症候群の症状

出典 : amanaimages
ローナ・ウイングは、アスペルガー症候群の症状として、3つの特徴的なものをあげています。これらをまとめて「3つ組の障害」と呼びます。

「3つ組の障害」1:社会性の障害

アスペルガー症候群の人は、人間関係において困難が生じることがあります。これは、相手の気持ちや意図を想像したり、その場の「空気」や、しきたりやしがらみなどの「暗黙のうちに成立している社会的ルール」を感じたり理解するのが苦手であるためです。

また、自分の感情を表現したり、自分の発言や行動が他人に与える印象を想像することが苦手な人も多く、このため率直すぎる発言をしてしまうこともあります。

これらの結果、アスペルガー症候群の人は「無神経な人だ」と思われたり、「常識のない人だ」と誤解されやすいですが、本人に悪意はないため、他人からこのような評価を受ける理由が理解できないこともしばしばです。このような感じ方や認知の偏りがあるためにアスペルガー症候群の人は、孤独感や疎外感を抱きがちだと言えます。

「3つ組の障害」2:言語コミュニケーションの障害

アスペルガー症候群では、知的能力の発達に遅れはありません。しかし、言葉の使いかたが独特であるため、他人との意思疎通がスムーズに行われにくい傾向があります。

たとえば、本などで覚えた難解な言い回しを日常会話でも使うことがあり、年齢や状況にそぐわないことから「変わった人」と思われることもあります。

また、文脈や、言外に含まれる意図を読み取ることが苦手で、相手の発言を文字通りに受け取ってしまいがちです。同様に、相手の声のトーンや表情、身振り・手振りから真意を読み取ったり、ユーモアやお世辞、皮肉や比喩を理解することも苦手な人が多いです。

さらに、耳から入ってくる情報処理が苦手なために、視覚的な情報のほうが理解しやすいという特性もあり、そのため、会話についていけなくなることもあります。

「3つ組の障害」3:想像力の障害

アスペルガー症候群の人は、決められた手順やスケジュールに強くこだわり、新しい人や状況、予想外の事態への臨機応変な対応が苦手である傾向があります。

予想外の事態に直面すると、不安にかられたり、パニックを起こすこともあります。このため、他人から「融通がきかない」「わがまま」などと思われてしまうことがあります。

また、物事の一部分にこだわってしまい、全体像を把握することも苦手な傾向にあります。興味の対象が狭い範囲のものごとに限られ、深く追求することを好みます。対人関係の困難さもあり、人づきあいを避け、ひとりで自分の好きなことに没頭することを好む人も少なくありません。

「3つ組の障害」のあらわれかたは、人によりさまざま

「3つ組の障害」のあらわれかたは、人により異なります。このため、アスペルガー症候群の人の性格や行動にはさまざまなタイプがあります。

一人でいることを好むタイプもいれば(孤立型)、反対に、積極的に人と関わろうとするタイプもいます(積極奇異型)。他人からのアクションがあれば応じるが、自分からは他人と関わろうとしない受動的なタイプもおり(受動型)、その特徴は人によりまったく異なります。また、年齢が進むとともに特徴が変化していくこともあります。

共通しているのは、「3つ組の障害」はどれも行動にまつわる障害であるということです。外見からはこのような障害があることがわからず、知的障害はないため、アスペルガー症候群の人は他人から「変わった人」という誤解を受けやすい傾向にあります。

アスペルガー症候群の特性

出典 : amanaimages
アスペルガー症候群では、「3つ組の障害」のほかにも、以下のような特性が見られます。

感覚の過敏・鈍麻

アスペルガー症候群の人には、特定の感覚がほかの人よりも敏感であったり逆に感じにくい人が多いようです。

たとえば、聴覚や視覚、嗅覚、触覚や味覚などが敏感な場合、ほかの人にとっては許容範囲である電話の呼び出し音や電車のアナウンス、他人の香水やタバコの匂い、電灯の明るさなどをストレスに感じてしまうことがあります。また、慣れた肌触りを好むあまり同じ服ばかり着たり、慣れた味を好んで偏食になったりすることもあります。

体のバランスが悪い

アスペルガー症候群では、筋肉や関節の感覚が脳に伝わりにくい傾向があります。このため、運動が苦手であったり、手先が不器用であったり、姿勢が悪かったりすることがあります。

この結果、他人からは動作がぎこちなく見えたり、乱雑な人だと思われてしまうことも。

高い記憶力や集中力

アスペルガー症候群の人のなかには、高い記憶力や集中力を持っている人がいます。
興味があることがらには何時間でも集中して取り組み、単純作業や反復作業もいとわずにやりぬくため、探究心の強さとあいまって、特定の分野で他人にはできないような業績をあげることもあります。

大人になってから苦労する人もいる

学校生活では、達成すべきことや手順があらかじめ決められており、それらをこなすことはできるため、目立った問題が見られない子もいます。しかし、大人になり就職すると、創意工夫や臨機応変な対応を求められる場面が増え、人間関係もより複雑になるため、特性による困りごとが顕著になりやすいと言えます。

アスペルガー症候群の人にとってさらにむずかしいのが、恋愛や結婚生活です。恋人や配偶者、家族はもっとも近い距離で関わる存在である一方、関わりかたにマニュアルや正解はありません。相手の存在を自分の世界に受け入れ、協力して関係をはぐくんでいく必要がありますが、このプロセスでは相手の気持ちを想像したり、自分の気持ちを伝えたりと、アスペルガー症候群の人が苦手な要素がとくに求められると言えます。
参考 : 上野一彦 「図解 よくわかる 大人の アスペルガー症候群」

アスペルガー症候群で起こり得る二次障害

出典 : amanaimages
発達障害では、症状や特性とは別の症状である「二次障害」が起こることがあります。二次障害とは、発達障害がもととなって起こる疾病や障害のことです。

アスペルガー症候群の人は、本人は努力しているのにもかかわらず、他人から誤解されやすい傾向にあります。このため、しばしば疎外感や無力感を抱いていたり、自信をなくしていたりします。

このような感情がうまく処理できずに高まっていくと、心身にも不調があらわれ、以下のような二次障害が起こることがあります。
  • うつ病
  • 強迫性障害
  • 統合失調症
  • 摂食障害
  • 睡眠障害
  • 心身障害
  • 行為障害
  • 引きこもり
  • 頭痛、腹痛
  • 対人恐怖
  • フラッシュバック など
二次障害は、周囲の理解がない、本人にとって不適切な環境下で起こりやすくなります。周囲の人がアスペルガー症候群の症状や特性について理解し、プラスの側面を生かすことのできる環境を作ることで、多くの二次障害は発生の予防が可能であるとされています。

アスペルガー症候群かな?と思ったら

出典 : amanaimages
「もしかしたら、自分はアスペルガー症候群かもしれない」と思い、誰かに相談したいときには、以下の2つの方法があります。

まずは福祉機関に相談してみましょう

いきなり病院を受診するのは心理的なハードルが高い場合、まず福祉機関に相談してみるのもひとつの方法です。

代表的な福祉機関は、各都道府県や政令市に設置されている「発達障害者支援センター」です。発達障害を持つ人への総合的な支援を目的とする機関で、相談員が発達障害の人の生活や医療、就労などについての助言をおこなっています。保健や福祉、労働などの関係機関とも連携しているため、より適切な支援機関の紹介などの情報提供もおこなっています。

個人情報は守秘されるため、安心して相談することが可能です。ただし発達障害者支援センターでは、発達障害の診断や職業訓練は行われていません。

病院の探しかた

アスペルガー症候群をうたがい、病院を受診して診断や治療を希望するとき、18歳以上である場合は精神科や心療内科を受診します。

しかし、どの精神科や心療内科でも発達障害の診断ができるわけではありません。発達障害をあつかう医療機関は限られており、大人の発達障害をあつかう医療機関はさらに少ないのが現状です。

発達障害をあつかわない医療機関を受診すると、ほかの精神疾患と誤診されてしまったり、二次障害に対する診療しか行われないこともあります。このため、アスペルガー症候群にくわしい専門医を受診することが重要となります。

発達障害の専門医を見つけるのがむずかしい場合は、発達障害者支援センターに相談して、専門医を紹介してもらう方法もあります。

アスペルガー症候群の治療法は?

出典 : amanaimages
アスペルガー症候群であると診断された場合、どのような治療法があるのでしょうか?

アスペルガー症候群そのものの治療法は、まだ存在しないのが現状です。これは、アスペルガー症候群の原因である脳機能の障害を、投薬などにより改善する治療技術がまだ確立されていないためです。

このため、以下の2つの方法がアスペルガー症候群の治療の中心となります。

①環境調整やカウンセリング

発達障害では、治療により症状や特性がなくなることはありません。このため、アスペルガー症候群の症状や特性を本人と周囲の人間がよく理解し、本人が日常生活を過ごしやすくなるための工夫を行う「環境調整」が基本的な対処法です。

周囲の人の理解と支援がある適切な環境をつくることが、二次障害の発生をふせぐために重要となります。また、本人みずから苦手な分野での社会的スキルを学ぶことが、トラブルや誤解を減らし、生きにくさを解消していくことにつながります。

生活や仕事に関する相談は、発達障害にくわしい心理療法士のカウンセリングを受けることも有効です。心理療法士は、第三者の目で日常生活のなかの改善すべき点を洗い出し、解決していくためのアドバイスをおこないます。


また、二次障害の症状として摂食障害などがある場合は、カウンセリングや認知行動療法が適用されることもあります。

②心身的症状や二次障害に対する、薬物療法やカウンセリング、認知行動療法

アスペルガー症候群のある人に、二次障害が起こっている場合は、環境調整に加えて、疾患や症状に応じて、二次障害に対する薬物療法が行われることもあります。まず二次障害の心身的症状を改善したのち、次に環境調整などの対応により、過ごしやすい環境をつくっていきます。

薬物療法は、二次障害の心身的症状に対する対処療法であるため、一生つづくものではありません。二次障害の症状が改善しはじめた時点で、投薬の中止を視野に入れます。ただしこのとき、かならず主治医の指示にしたがい、減薬から投薬中止まで徐々に移行する必要があります。

薬物療法で使用されることのある薬物には、抗うつ剤や抗精神病薬、睡眠導入剤や気分安定薬、抗てんかん薬などがあります。

大人のアスペルガー症候群の人はどんな支援が受けられるの?

出典 : amanaimages
障害のある人は、障害者手帳を取得することにより、さまざまな福祉サービスを受けることができます。障害者手帳には、「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」の3種類があります。

療育手帳の交付は、知的障害があることが前提となります。そのため、アスペルガー症候群の人が交付対象となることはまれだと言えるでしょう。

但し自治体により交付対象が異なるので、発達障害支援センターなどにお問い合わせください。

2011年の障害者基本法の改定により、法律の分類上は発達障害が精神障害に含まれることとなったため、知的障害がない発達障害の場合には、精神障害者保健福祉手帳の交付が可能となりました。

ただし、アスペルガー症候群であればかならず精神障害者保健福祉手帳が取得できるわけではありません。日常生活での困難度合いが大きい場合や、二次障害としての精神障害が現れているような場合に交付される可能性が高くなるようです。

精神障害者保健福祉手帳を取得していると、税制の優遇措置を受けることができたり、障害者枠での就労が可能になるなどのメリットがあります。

しかし、精神障害者保健福祉手帳を取得していなくても、申請のうえ受けることのできる支援があります。障害者総合支援法により、身体障害者や知的障害者とともに、発達障害者を含む精神障害者への支援が定められているためです。

知っておきたい「合理的配慮」という概念

発達障害のある人が生活していくなかでは、公的支援を受けたり、仕事やプライベートの場で他人から配慮を受けたりする場面があります。
このような場合に知っておくと役立つのが、「合理的配慮」という概念です。

合理的配慮とは、障害のある人が「何らかの対応を必要としている」という意思表示をしたとき、支援を提供する側の負担が大きすぎない範囲で対応することを指します。2016年4月に施行された障害者差別解消法は、行政機関や民間事業者に対し、合理的配慮を提供することを求めています。しかし行政機関や民間事業者だけではなく、障害のある人の生活に関わるすべての人に適用される概念です。

障害のある人が、周囲の人に対し「何に困っており、どのような対応を受けると解消するのか」について意思表示をおこない、周囲の人は、負担が大きすぎない範囲で対応します。このような「合理的配慮」の日常的な繰り返しにより、障害のある人が社会のなかで過ごしやすくなります。

合理的配慮は、物理的な対応だけではありません。例えばアスペルガー症候群の人の場合、抽象的・婉曲的な表現を理解しにくい特性があることを説明し、「直接的な表現を使ってほしい」と頼むことなども当てはまります。

アスペルガー症候群の人が苦手なことと対処法

出典 : amanaimages
アスペルガー症候群の「3つ組の障害」や特性は、日常生活のなかで、困難やトラブルにつながってしまうことがあります。

アスペルガー症候群の人がしばしば苦手とすることと、その対処法には、以下のようなものがあります。

社会性の障害からくるもの

アスペルガー症候群の人は、人づきあいで苦労しがちです。他人と仲良くなろうと努力しているのに、なぜかいつもトラブルになってしまったり、身だしなみに無頓着であるなどの理由で「変わった人」と思われてしまったりなどが続き、自信をなくしていることもあります。人づきあいを避けるようになった結果、単独行動を好む人もいます。

しかし社会性の障害は、マナーを機械的に覚えてしまうことでカバーできるケースも多くあります。例えばあいさつやあいづちは「機械的に行うもの」と考え、適切に行うタイミングをいっそ覚えてしまうのもひとつの方法です。相手が求めていることを理解するために、相手の話をしっかりと聞いたり、思ったことをそのまま口に出す前にいったん考えてみたり、質問して確認したりする習慣をつけることも有効です。

アスペルガー症候群の人は、状況を全体的に把握することも苦手な傾向があります。人づきあいでトラブルが起こる理由がわからない場合は、信頼のおける人にトラブルになった場面を説明し、原因を指摘してくれるように頼んでみるのも良いかもしれません。

言語コミュニケーションの障害からくるもの

通常、人は発する言葉以外にも、表情や身振り手振り、声のトーンなども使って微妙なニュアンスを表現します。しかしアスペルガー症候群の人は、これらのニュアンスを理解することが困難な傾向があります。この結果、会話がギクシャクしたり、お世辞や社交辞令を言葉通りに受け取ってしまったり、冗談が通じないなどの理由で、気まずい雰囲気になってしまうことがあります。

想像力の障害からくるもの

アスペルガー症候群の人は、ルールや自分の好きなことに強いこだわりがある場合が多いです。また、自分の考えかたや進めかたを変えることが苦手な傾向もあります。このことが原因で、他人とギクシャクしてしまうこともあります。

「自分が好きなことや大切なことは、他人にとってはかならずしもそうではない」ということを理解しましょう。自分のこだわりを他人には押しつけず、ほかの人にも自分と同じように、その人なりのこだわりがあることを尊重できるようになれば、他人との摩擦は減っていくかもしれません。

また、「これがダメだったら、あれでも良い」と、自分の希望どおりにものごとが進まない場合の「代替プラン」を想定しておくことも、想定外の事態が起こった場合の不安をやわらげることに役立ちます。
参考 : 司馬理英子 「大人の発達障害 アスペルガー症候群・ADHD シーン別解決ブック」

アスペルガー症候群の人の仕事

出典 : amanaimages
アスペルガー症候群の「3つ組の障害」や特性は、仕事をする上でも困難やトラブルにつながってしまうことがあります。

職場で起こりやすいトラブルと対策

アスペルガー症候群の人の仕事がうまくいかない場合、考えられる理由はほとんどの場合、以下の2つのケースのどちらかに由来しています。

1. 仕事がアスペルガー症候群の特性や自分の適性に合っていない
2. 人間関係がうまくいかない

これらの2つのことは、「3つ組の障害」の症状と密接に関連しています。
アスペルガー症候群の人がはたらく職場で起こりやすいトラブルと対策には、以下が考えられます。

言語コミュニケーションの障害からくるトラブル

アスペルガー症候群の人が持つ言語コミュニケーションの障害は、仕事上ではさまざまな困難につながることがあります。上司の指示が理解できなかったり、相手が怒っていることに気づかなかったり、自分の話がむずかしすぎて相手に理解されにくいなどの小さなトラブルが重なると、やがて業務や人間関係にも影響をおよぼしかねません。

上司の指示は復唱する癖をつけたり、メールやメモなどの文字による連絡方法を多用するなどの工夫が役に立つでしょう。

想像力の障害からくるトラブル

仕事では、すべてが予定どおりに進むケースばかりではありません。アスペルガー症候群の人は、想像力の障害が原因で、予定外の仕事が入ると混乱してしまったり、自分の仕事の進めかたにこだわるあまり、周囲の人とトラブルになったりすることがあります。

このことに対しては、予定外の事態にも対処できるよう、普段からゆとりを持って仕事を進める癖をつけることが有効です。「やることリスト」をつくって作業を視覚的に整理し、優先順位をつけておくことでも、混乱を予防することができます。

感覚の敏感性からくる問題

アスペルガー症候群の人が持つ感覚の敏感性は、職場でもさまざまな困難を引き起こすことがあります。電話の音やBGMを耳触りに感じたり、照明をまぶしく感じて仕事に集中できないことも。アスペルガー症候群の人は、光が比較的不安定である蛍光灯やLEDライトの光を不快に感じがちです。

可能であれば、職場で耳栓や、ヘッドホンやイヤーマフを使う対策が有効です。また、カラーフィルターレンズのメガネをつけたり、自然光が入る窓際の席にしてもらうなどの工夫もできると良いでしょう。

職場でアスペルガー症候群のことをうまく伝えるには?

障害者手帳を取得し、障害者雇用枠で就労をしている場合は、アスペルガー症候群の人の症状や特性を周囲の人に共有したり、支援を得やすい傾向があると言えます。合理的配慮についての労使間の話し合いの機会を設けることなどを通して、職場で起こる困難やトラブルは未然に減らすことができます。

しかし、仕事に就いてからアスペルガー症候群があることに気づき、診断されたという方や、障害者手帳や診断書を取得済でもそのことを職場に非公開で一般就労されている方(いわゆる「クローズ枠」での就労)の場合、職場にアスペルガー症候群であることを公開することが、必ずしも当事者の方に有利であるとは言い切れないという側面もあります。

症状のあらわれかたは人それぞれであると同時に、周囲の人の発達障害に対する理解度もさまざまであり、業種や職場によっても事情が異なるためです。

アスペルガー症候群であることを打ち明けることに決めた場合でも、職場の全員に周知する必要はないかもしれません。まず信頼できる人から打ち明けてみて、事態が好転するのかどうか、様子を見てみるのもひとつの方法です。

アスペルガー症候群であることを打ち明けないことに決めた場合でも、自分がとくに不得意なことや苦手なことだけでも周囲の人に伝えておくと、トラブルにつながる頻度が減るかもしれません。これは障害がない人でも自然におこなっていることであり、引け目に感じる必要はありません。

職場の困りごとは、第三者の力を借りて解消する方法も

職場での困りごとがこじれてしまった場合や、自分の状況をうまく周囲に伝えることができない場合は発達障害者支援センターへ相談してみるほか、職場適応援助者(ジョブコーチ)や障害者職業生活相談員などの第三者の力を借りて解決する方法もあります。

職場適応援助者(ジョブコーチ)

職場適応援助者(ジョブコーチ)は、障害のある人が職場に適応できるよう、職場に出向いて障害のある人と職場の両方に支援を提供する人のことです。障害者職業センターや社会福祉事務所から派遣される場合もあれば、企業が直接雇用している場合もあります。

職場適応援助者(ジョブコーチ)は、障害のある人に仕事に関するアドバイスをおこなうだけでなく、周囲の人にも障害の特性や対応方法を説明するなどの必要な支援を行います。

障害者職業生活相談員

障害者雇用促進法は障害者を5人以上雇用する事業所に対し、従業員のなかから「障害者職業生活相談員」を任命することを定めています。

障害者職業生活相談員は、障害を持つ人の職務内容や作業環境に関することだけでなく、労働条件や人間関係などについても支援や助言を行います。
参考 : 宮尾益知/監修 「ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 職場の発達障害」

アスペルガー症候群の人に周囲の人はどう接すれば良い?

職場や家族など、自分の周囲にアスペルガー症候群の人がいる場合、周囲の人はアスペルガー症候群の人にどのように接するのが良いのでしょうか?

基本的な対応は、アスペルガー症候群の症状や特性を知り、それらを受け入れ、生かすことができる環境を作ることです。アスペルガー症候群の症状や特性は生まれつきの脳機能障害によるものであり、本人の努力だけで対応や改善を求めることは望ましくありません。

アスペルガー症候群の人に努力による症状や特性の改善を求めることが本人を追い詰めることとなり、二次障害の発生につながるおそれもあります。二次障害が発生すると、問題がさらに複雑になりがちです。

周囲の人の理解と支援がある環境では、アスペルガー症候群の人の生きづらさは減り、二次障害も起こりにくくなります。

職場にアスペルガー症候群の人がいたら

職場にアスペルガー症候群の人がいる場合は、以下のような工夫により、アスペルガー症候群の人が業務をスムーズにおこないやすくなります。

窓口となる人をきめる

アスペルガー症候群の人は、しばしば対人関係そのものを苦手に感じています。このため、業務上必要な報告や相談なども誰に行って良いかわからず、滞ってしまうことも。アスペルガー症候群の人に対しては、窓口や相談相手となる人を決めておき、指示を出すときはその人から可能なかぎり1対1で出すようにすると、アスペルガー症候群の人が混乱することが少なくなります。

図や文字を使って注意点や手順を指示する

アスペルガー症候群の人は、耳からの情報処理が苦手で、目からの情報のほうがわかりやすいという特性が強い傾向があります。口頭での説明が長くなると途中で理解できなくなったり、指示がよく聞き取れなくなったりすることも。メールやメモなどの文書で、図や文字などの視覚情報をもちいて指示を出すとわかりやすくなります。

複数業務を同時に指示しない

アスペルガー症候群の人は、複数のことがらを同時進行することも苦手であることが多いです。また、業務の手順を順を追って説明しても、アスペルガー症候群の人にとっては、どの手順が優先なのかわからなくなってしまうことも。これは、いちどに多くの情報を処理することがむずかしいためです。

業務は可能なかぎり1つずつ指示し、手順などの説明の場合は図なども使って示しましょう。

具体的・簡潔明瞭な指示、明確な目標や到達点を指示する

アスペルガー症候群の人は、ものごとの全体像を把握することが難しい傾向があります。このため、到達点を決め、それに向かって自分で段取りを組むことも苦手です。また、抽象的な表現は理解が難しいことも。アスペルガー症候群の人には、ひとつの業務の到達点を示し、具体的で簡潔明瞭な指示を出すと良いでしょう。

感覚の過敏性に対する配慮

アスペルガー症候群の人は、感覚の敏感性のために、仕事に集中できなくなったり、ひどくなると頭痛やめまいなどの身体症状があらわれることがあります。仕事環境をなるべくシンプルにととのえると、アスペルガー症候群の人が仕事しやすくなります。

本人と話し合い、蛍光灯を白熱灯に変えたり、デスクをパーテーションで区切ったり、環境音が小さい場所にデスクを配置するなどの配慮が適切です。また、大声で話しかけたり、後ろから突然声をかけたりすることも控えましょう。

できないことを責めるのではなく、良い面を評価する

業務上でミスがあった場合、そのミスを指摘し、ミスが繰り返されないように指導がおこなわれることも日本の職場では少なくないでしょう。しかし、アスペルガー症候群の人は叱責を受けると、感情的な強い不安を感じたり、必要以上に自己評価が下がってしまうことがあります。

これは、想像力の障害から、言葉を文字通りにとってしまう傾向があるため。アスペルガー症候群の人は、自分の全人格を否定されたように思ってしまったり、自分が叱責されている理由がわからずに混乱してしまうこともあります。

ミスがあったときは「どうすれば良かったのか」ということも同時に伝えましょう。また、強い言葉はできるだけ使わない配慮も必要です。あわせて、良い面も評価し、それを本人にも伝えることで、アスペルガー症候群の人が自信を持ち、能力を仕事に生かしやすくなります。

家族や恋人、配偶者がアスペルガー症候群だったら

出典 : amanaimages
家族や恋人、配偶者のようなごく近い関係の人がアスペルガー症候群であるとき、適切な環境が作られていない場合は、アスペルガー症候群の当事者と周囲の人間の双方が大きなストレスを抱えることになりかねません。

家族や恋人、配偶者がアスペルガー症候群である場合は、以下のような対応が必要となります。

特性について理解しておく

まず基本的なことは、アスペルガー症候群の症状や特性についての理解を、家族(パートナーを含む)全員が共有しておくことです。アスペルガー症候群の人が精神的に安定した生活を送るためには、もっとも身近な人間である家族の理解と支援が欠かせないためです。

感情的にならず、話し合う

障害がない人の場合でも、近い関係の人に対するほど「言わなくてもわかってほしい」という思いを抱いてしまうもの。家族や恋人、配偶者がアスペルガー症候群である場合は、このような不満が日頃からつのった結果、つい感情的になってしまいがちです。しかしアスペルガー症候群の人に対して感情的になっても、逆効果でしかありません。

アスペルガー症候群の人に改善してほしいことがある場合は、小さなことでも話し合い、一緒に解決していく姿勢が重要となります。

生活上の具体的なルールを決めておく

障害のない人にとってはわかりきった普通のことでも、アスペルガー症候群の人には思いもつかないことであることがしばしばあります。このため、生活上の具体的なルールや役割分担をあらかじめはっきりと決めておくことが、日常生活での摩擦や混乱をふせぐことに役立ちます。

医療機関でカウンセリングや家族療法を受ける方法も

さまざまな工夫を凝らしても、アスペルガー症候群の人の家族や恋人、配偶者は、価値観の違いがあまりに大きいことから、ときには疲れ果ててしまうこともあります。また、発達障害の人の両親や兄弟のなかにも、発達障害の人がいる場合もあります。このような場合は、事態を話し合いにより解決しようとしても、複雑になりがちです。

自分たちで解決することがむずかしい場合は、家族やカップルで家族療法を受けることが有効かもしれません。カウンセラーなど第三者の視点から状況を整理し、妥協点を見つけ、全員にとって心地よい環境を作っていくことが家族療法の目的となります。カウンセリングや家族療法は、精神科や心療内科で受けることができます。

まとめ

出典 : amanaimages
アスペルガー症候群の人は、「社会性の障害」「言語コミュニケーションの障害」「想像力の障害」という「3つ組の障害」があるほか、感覚の敏感性などの特性を持ちます。大人のアスペルガー症候群の場合、これらの症状や特性が、仕事や恋愛などの場面でさまざまな困難を引き起こすことがあります。

しかし、周囲の人の理解と支援を得て、特性を生かすことのできる環境を作ることで、アスペルガー症候群の人の生きづらさは減り、特性を才能として生かしていくことも可能です。ときには第三者の力や公的支援も利用しながら、アスペルガー症候群の人が過ごしやすい環境を少しずつ作っていきましょう。
監修 : 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
応用行動分析学
自閉症支援士エキスパート
LITALICO研究所 客員研究員

あわせて読みたい