PTSD(心的外傷後ストレス症)とは?原因、主な症状、診断、治療、受けられる支援を説明します

更新 2025/01/24 公開 2021/02/26
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PTSD(心的外傷後ストレス症)とは災害や事故、犯罪被害など生命の危険を感じる出来事の体験や目撃がトラウマ(心的外傷)となり、さまざまな症状が現れる疾患です。きっかけとなる出来事から時間が経ってからも、強い恐怖や不安を感じたりフラッシュバックに苦しんだりし、生活にも支障が出ます。ここではPTSD(心的外傷後ストレス症)の症状や診断基準、治療法、受けられる支援などをくわしく解説します。
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目次

  1. PTSD(心的外傷後ストレス症)とは?
  2. PTSD(心的外傷後ストレス症)の原因
  3. PTSD(心的外傷後ストレス症)の主な症状
  4. PTSD(心的外傷後ストレス症)かも?と思ったら
  5. PTSD(心的外傷後ストレス症)の診断・検査
  6. PTSD(心的外傷後ストレス症)の主な治療法
  7. PTSD(心的外傷後ストレス症)の人が受けられる支援
  8. 身近な人がPTSD(心的外傷後ストレス症)を発症したら
  9. まとめ

PTSD(心的外傷後ストレス症)とは?


PTSD(心的外傷後ストレス症)は、トラウマによって引き起こされる精神疾患で、危うく死ぬところだったと思えるような強い体験、性的暴力や虐待、あるいは持続的だったり繰り返しそのような状況にさらされる体験がきっかけとなり、不安、緊張などの症状が生じ、社会生活が困難になる病気です。

代表的な症状には、大きく分けて以下の4つがあります。

まず、外傷的出来事の恐怖感・無力感と共に反復的で不随意の侵入的な記憶の想起、外傷的出来事に関する夢を繰り返し見る、外傷的出来事のフラッシュバック、外傷的出来事を思い出す際に強い心理的または生理学的苦痛を感じるといった「侵入症状」

次に、外傷的出来事に関連する思考、感情、または記憶、およびその記憶を引き起こす活動、場所、会話、または人への「回避」

外傷的出来事に関する記憶障害(解離性健忘)、自身や他者への持続的で過剰な否定的な認知、自身や他者を責めることにつながる心的外傷の結果に関する持続的な歪んだ思考、持続的な陰性感情(恐怖、戦慄、罪悪感、恥辱など)、重要な活動への参加の著しい減少、他者からの孤立感などの「認知および気分の陰性変化」

そして睡眠障害、易怒性、爆発的な怒り、自己破壊的で無謀な行動、集中困難、強い驚愕反応、過度の警戒心などを呈する「過覚醒」です。

こうした症状が1か月以上続きます。

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PTSD(心的外傷後ストレス症)の原因


トラウマ体験(心的外傷的出来事)とPTSD(心的外傷後ストレス症)発症のメカニズム

PTSD(心的外傷後ストレス症)は生命がおびやかされるような危険(トラウマ体験)の目撃や体験が原因で起こります。災害や戦争、犯罪被害、事故などさまざまな体験が原因となります。

強いショックによって脳の一部が委縮したり脳の血流が低下したりすることで、さまざまな精神的・身体的な症状が引き起こされ、その状態が回復しないまま長く続くのです。

辛い体験をすれば、悲しみや辛さ、気分の落ち込みなどの精神的ショックを感じるのは当然でしょう。しかし多くの場合は時間の経過とともに和らいでいきます。トラウマになるような体験をしても、すべての人がPTSD(心的外傷後ストレス症)になるわけではありません。

PTSD(心的外傷後ストレス症)を発症するかどうかは、受けたストレスの強さや種類、また社会的サポートの有無や日常生活におけるストレスの有無などに左右されると言われています。

PTSD(心的外傷後ストレス症)の主な症状


PTSD(心的外傷後ストレス症)には主に4つの症状があり、それが1か月以上続きます。

トラウマになった出来事を繰り返し思い出してしまう(再体験)

つらい記憶を無意識に何度も思い出してしまう状態が続きます。もっとも激しい症状は「フラッシュバック」と呼ばれ、頭の中で過去のトラウマ体験が再現されて、あたかも目の前で起こっているかのような感覚に陥ります。現実を認識できず周囲からの呼びかけに反応しなくなることもあります。

トラウマに関連する事柄を避ける(回避)

犯罪被害に遭った現場に近づけなくなる、つらい出来事に関する話をしたがらないなどの症状がよく見られます。これによって行動や人との交流が制限されると、社会生活にも支障が出ます。また体験そのものの記憶が抜け落ちる人もいます。

否定的な考えやネガティブな感情が浮かぶ(否定的感情と認知)

「私が悪いんだ」「信用できる人はいない」など自分や他人に対する否定的な考えが持続的に浮かぶ症状です。恐怖、怒り、罪悪感などのネガティブな感情が続き、ものごとへの興味が失せ、世界から孤立しているような感覚を持つことがあります。

神経が過敏になり、常に精神が緊張した状態になる(覚醒亢進)

ささいな物音や人の動きにも過剰に驚く、警戒心が強くなるなどの特徴もあります。いつもイライラ・ピリピリしていて気が休まらず、集中しにくくなったり心身ともに疲れやすくなったりします。

その他にも現実感がなくなり夢の中にいるような感覚が続く“解離”と呼ばれる症状や、不眠や動悸、めまいなどの身体面の症状があらわれることがあります。

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PTSD(心的外傷後ストレス症)かも?と思ったら


強烈なトラウマ体験の後は、多くの人が不眠や食欲不振、不安や緊張に悩まされます。しかし、これらはすべて自分の心を守るための正常な反応です。ほとんどの人は自然に回復していくため、1か月は様子を見ましょう。

症状が重い場合、数ヶ月経っても回復しない場合は、PTSD(心的外傷後ストレス症)である可能性を考えて医療機関を受診しましょう。

PTSD(心的外傷後ストレス症)は何科で治療する?

精神科や心療内科で治療を受けることができます。

医療機関探しにはインターネットでの検索のほか、お住まいの地域の保健所や保健センター、精神保健福祉センターなどの窓口、かかりつけ医や勤務先の産業医に相談するのもおすすめです。






PTSD(心的外傷後ストレス症)の診断・検査


PTSD(心的外傷後ストレス症)の診断の流れ

医療機関では、まず医師が問診でどんな体験をしてどんな症状に悩んでいるかを聞き取ります。その後に身体的なものも含めて他に併存する疾患がないか、別の疾患による症状ではないかなどを確認するため聞き取りや診察が行われ、最終的にPTSD(心的外傷後ストレス症)かどうか医師が診断します。

PTSD(心的外傷後ストレス症)の診断基準はいくつかありますが、主に国際的な精神疾患の診断基準である『DSM-5-TR』が使用されます。またPTSD(心的外傷後ストレス症)の診断基準に従って構成された面接法のCAPSや、患者が自分で回答を記入する質問紙検査のIES-Rなどを使って検査を行う場合もあります。

PTSD(心的外傷後ストレス症)に併存することのある精神疾患

PTSD(心的外傷後ストレス症)は他の精神疾患との併存が多い病気です。うつ病や双極性障害(双極症)(※1)などの気分障害(気分症)(※2)、不安障害(不安症)(※3)、薬物依存やアルコール依存症などとの併存が多く見られます。

(※1)双極性障害は現在、「双極症」という診断名となっていますが、最新版『DSM-5-TR』以前の診断名である「双極性障害」といわれることが多くあるため、ここでは「双極性障害(双極症)」と表記します。

(※2)アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)の内容をアップデートした『DSM-5-TR』の日本語訳でも、気分障害群について、これまで「障害」と訳されてきた疾患名の日本語名称が「症」に変更されています。このため「気分障害」も「気分症」にあらためられていますが、実際には「気分障害」という言葉も依然として一般的であるため、この記事では「気分障害(気分症)」という言葉を使って説明します。

(※3)アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)の内容をアップデートした『DSM-5-TR』の日本語訳でも、不安障害群について、これまで「障害」と訳されてきた疾患名の日本語名称が「症」に変更されています。このため「不安障害」も「不安症群」にあらためられていますが、実際には「不安障害」という言葉も依然として一般的であるため、この記事では「不安障害(不安症)」という言葉を使って説明します。

PTSD(心的外傷後ストレス症)と似た症状があらわれる疾患

PTSD(心的外傷後ストレス症)は不安を主な症状とする不安障害(不安症)の一種です。不安障害(不安症)の中にはPTSD(心的外傷後ストレス症)と似た症状を示す疾患が複数あります。例えばパニック障害(パニック症)(※4)は強い不安や動悸、めまいなどの症状がPTSD(心的外傷後ストレス症)に似ています。

またASD(自閉スペクトラム症)(※5)ではトラウマによらないフラッシュバックが起こり、数年以上前のことでもまさに今生じているかのように体験することがあります。

特徴的な症状があっても、それが本当にPTSD(心的外傷後ストレス症)によるものかを自分で判断するのは困難です。また、たとえPTSD(心的外傷後ストレス症)でなくても他の精神疾患を発症している可能性もあります。体調不良や精神的な落ち込みなどでつらいときは、ためらわずに受診しましょう

(※4)パニック障害は現在、「パニック症」という診断名となっていますが、最新版『DSM-5-TR』以前の診断名である「パニック障害」といわれることが多くあるため、ここでは「パニック障害(パニック症)」と表記します。

(※5)以前は「自閉症」という診断名が用いられていましたが、アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において自閉的特徴を持つ疾患が統合され、2022年(日本語版は2023年)発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました。この記事では以下、ASD(自閉スペクトラム症)と記載しています。

虐待などによって発症する「複雑性PTSD(心的外傷後ストレス症)」とは?

家庭内での虐待などの慢性的で繰り返し起きるトラウマ体験によっても、PTSD(心的外傷後ストレス症)のような症状があらわれることがあります。

2019年に改定された「ICD-11」という国際的な診断基準では「複雑性PTSD(心的外傷後ストレス症)」という疾患概念を採用し、従来のPTSD(心的外傷後ストレス症)とは別の疾患として区別しています。複雑性PTSD(心的外傷後ストレス症)とPTSD(心的外傷後ストレス症)の違いは発症の原因だけでなく代表的な症状にもあります。

複雑性PTSD(心的外傷後ストレス症)を発症すると「再体験」「回避」「否定的感情と認知」「過覚醒」といったPTSD(心的外傷後ストレス症)の代表的な症状だけでなく、感情のコントロールが効かず気分が激しく変動する、他者との関係を持つことが難しくなる、自分には価値がないと深く思い込むなどの特徴が見られます。

また意識が途切れる解離症状が見られたり衝動的に自傷行為をしてしまったり、体の痛みや不眠といったさまざまな体調不良を感じたりすることもあります。

PTSD(心的外傷後ストレス症)の主な治療法


PTSD(心的外傷後ストレス症)と診断されたら、医療機関やカウンセリング施設で適切な治療を受けましょう。 PTSD(心的外傷後ストレス症)の治療では、環境調整のほか薬物療法や心理療法が行われます。うつ病などの併存疾患の症状が重くて生活に大きな困難を抱えている場合には、まずそちらの治療を優先することもあります。

環境調整

日常の安全を確保します。万が一、再度トラウマにさらされる曝露しそうになる状況が持続している場合や、安全が保証できない場所にいる場合には、社会資源を活用するなどして安心できる場所を確保します。

薬物療法

SSRIなどの抗うつ薬を中心とした薬物療法は、PTSD(心的外傷後ストレス症)の症状への効果があるとわかっています。

心理療法

日常生活におけるリラクゼーションや、生活上のストレスに対する対処法を身につけます。認知行動療法の一種である持続エクスポージャー療法(PE療法)は、自然に回復しないPTSD(心的外傷後ストレス症)の症状に対して高い効果があります。

専門のトレーニングを受けた医師や臨床心理士の指導のもと、安全な環境でトラウマと向き合うことで記憶と強い恐怖との結びつきが徐々に解消され、PTSD(心的外傷後ストレス症)の症状が緩和されていきます。

持続エクスポージャー療法は回復効果があるといわれていますが、感情に強い負荷がかかるため、治療を受ける場合は信頼できる医師や臨床心理士を探すことがとても大切です。

その他の治療法

眼球を動かすことでトラウマ記憶の情報処理を促すEMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理法)はPTSDに効果があると言われています。

PTSD(心的外傷後ストレス症)の人が受けられる支援


働けなくなったときに利用できる支援・制度

休職・傷病手当

PTSD(心的外傷後ストレス症)を発症すると、フラッシュバックや極度の不安・緊張といった症状によって社会生活に支障が生じ、働けなくなる人も少なくありません。仕事を続けられなくなったときは休職を検討するのも一つの方法です。


休職中は傷病手当金を受け取れる可能性があります。傷病手当金とは仕事を休んでいる間の生活を支える目的で、給与の一部にあたる金額が健康保険から支給される制度です。


受けられる可能性がある支援

PTSD(心的外傷後ストレス症)の診断だけでは精神保健福祉手帳(障害者手帳)や障害年金の支給の対象にはなりません。しかしその他の精神疾患も発症していれば、これらを受けられる可能性があります。

障害者手帳を取得すると、税金の控除や公共料金の割引などが適用されるほか障害者雇用で働けるようになります。疾患があることが明らかになった状態で雇用されるため、体調などへの配慮を受けやすく、より無理のない環境で仕事ができるでしょう。なお手帳を取得した場合も職場に提示する義務はなく、必要に応じた使用が可能です。





身近な人がPTSD(心的外傷後ストレス症)を発症したら


PTSD(心的外傷後ストレス症)を発症したときは、家族やパートナーなど身近な人のサポートが大きな支えとなります。サポートの基本は、病気について正しく理解すること。病気への理解や知識がないと不適切なアドバイスや関わり方によって、症状を悪化させるおそれがあります。

身近な人がPTSD(心的外傷後ストレス症)になったらまずは本人の話に耳を傾け、受けたトラウマや現在の症状のつらさを認めるようにしましょう。症状に対して「そんなはずはない、大丈夫だ」などの声かけは、気持ちを否定することにつながり逆効果です。

「そのような出来事があったのならば、今の症状が出ているのはごく自然なことである」ということと「治療によって良くなる」ということを理解し、本人と共有しましょう。安心・安全な生活のためにサポートが必要な場合は、これを提供しましょう。

また関わる周囲の人自身が無理をしないことも重要です。抱え込まず、専門家や医療のサポートを利用しましょう

まとめ


PTSD(心的外傷後ストレス症)は災害や事件・事故などの衝撃的な体験のトラウマによって起こる精神疾患で、発症するとフラッシュバックや強い緊張・不安などの症状によって日常生活に支障をきたします。うつ病や不安障害、アルコール依存症などの疾患と併存することも少なくありません。

適切な治療によってつらい症状を改善できるため、PTSD(心的外傷後ストレス症)が疑われるときはひとりで抱え込まず、精神科や心療内科を受診しましょう。

参考
飛鳥井望(監修)「PTSDとトラウマのすべてがわかる本」
貝谷久宣(監修)「よくわかるパニック症・広場恐怖症・PTSD」
杉山登志郎(著)「発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療」
監修者の写真
監修 : 増田史
精神科医・医学博士
滋賀医科大学精神科 助教
医療法人杏嶺会 上林記念病院 こども発達センターあおむし
著書に『10代から知っておきたいメンタルケア しんどい時の自分の守り方』(2021年8月 ナツメ社)
https://www.natsume.co.jp/books/15323
執筆者の写真
執筆 : LITALICO仕事ナビ
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