対人恐怖症(社交不安症)とは?症状や原因、治療法や仕事上での対策、日常生活での工夫まとめ

2018/06/01
対人恐怖症(社交不安症)とは、他人との交流や人前でのふるまいに強い不安や緊張を感じ、日常生活に支障が出ている状態のことです。この記事では、対人恐怖症の症状や原因、治療法や仕事上での対策、症状を軽減するための日常生活上の工夫について解説します。

目次

  1. 対人恐怖症(社交不安症)とは
  2. 対人恐怖症の症状
  3. 対人恐怖症の原因
  4. 対人恐怖症は治るの?
  5. 仕事をするうえでの対人恐怖症との付き合い方
  6. 対人恐怖症の症状を軽減するための日常生活での工夫
  7. まとめ

対人恐怖症(社交不安症)とは

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対人恐怖症(社交不安症)とは、自分が他人にどう思われているかについて不安になり、他人との交流や人前での行為などの不安が生じそうな状況を回避することにより、日常生活に支障が出ている状態のことです。

対人恐怖症と社交不安症との違い

対人恐怖症はよく知られた概念ですが、医学上の正式な疾患名ではありません。近年では、対人恐怖症は不安症の一種である「社交不安症」に含まれると考えられています。このため、対人関係において恐怖や不安を感じる人が病院で受診をすると、「対人恐怖症」ではなく「社交不安症」との診断名がつけられることが通常です。

しかし対人恐怖症と社交不安症は、厳密にはイコールではありません。医師によっても対人恐怖症と社交不安症との位置づけに対する考え方は異なり、統一された見解が存在しないのが現状です。

この記事では、日頃耳にすることの多い「対人恐怖症」という言葉を使って解説をしていますが、症状・原因・治療法については、アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)に記載されている疾患「社交不安症」に基づいて説明します。

1980年出版の『DSM-III』に不安障害の1つとしての「社会恐怖」という概念が記載されてから、欧米でも「社交不安症」という概念が一般に普及しました。しかし日本の精神医学ではそれ以前から「対人恐怖症」という病名が使われ、一般の人々にも知られていました。

対人恐怖症には、「恥の文化」と形容されることもある、他人や世間の目を気にする日本の文化的背景が関係していると考えられてきました。実際に、DSM-5において対人恐怖症は「Taijin kyofusho」とローマ字表記の日本語で記載されています。

DSM-5では対人恐怖症を「文化症候群」と位置づけています。文化症候群とは、特定の文化的集団や共同体などにおかれた人々に同時発生する傾向のある症状のことです。しかし最近の研究では、対人恐怖症に似た症状はアメリカなどの他の国にも存在することがわかっています。

今日では、対人恐怖症という概念と社交不安症には、以下のような違いがあるとされています。

 対人恐怖症:「自分が他人を不快にさせていないか」についての不安
 社交不安症:他人に注目される場面で、恥ずかしい思いをすることへの不安

DSM-5における対人恐怖症の定義

社会的交流において、自己の外見や動作が他者に対して不適切または不快であるという思考、感情、または確信によって、対人状況についての不安および回避が特徴である文化症候群である
引用 : 日本精神神経学会(監修) 「『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)」

「誰もが持つ不安」と「病的な不安」の違い

他人の目が気になったり、他人の前で何らかの行為をおこなう際に緊張することは誰にでも起こります。しかし、不安や緊張が過剰となって本人が悩み、不安や緊張が生じうる状況を回避するために社会生活に支障が生じるようになると、「誰もが持つ不安」の範疇を超えていると考えられます。

対人恐怖症の症状

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対人恐怖症であらわれる症状は、精神的な症状と身体症状に分けられます。

精神的な症状

他人との交流や人前で何らかの行為をおこなう場面で、強い不安や恐怖を感じます。また、自分が不安を感じていることを他人に気づかれることを恐れます。

身体症状

対人恐怖症の人が不安を感じたときは、手足・声の震えや動悸、発汗や赤面、腹部の不快感や息苦しさなどの身体症状があらわれます。これらの症状は、交感神経が優位になることで起こる反応です。

脳の働きによる身体への影響

交感神経が優位になるのは、脳の「扁桃体」という部位の働きによります。扁桃体は不安や恐怖などの感情をつかさどる中枢であり、人間が危機を感じると、危機の信号が扁桃体に伝わります。扁桃体は、体を戦ったり逃げたりするのに適した状態にするため、交感神経が優位になるよう指令を出します。

扁桃体のこの働きは、危機に対する正常な反応です。しかし、対人恐怖症を含む不安障害や、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの疾患のある人の脳では、扁桃体の活動が過剰になっていることがわかっています。このため、不安や恐怖といった感情をより強く感じたり、身体症状があらわれたりするのです。
参考 : 独立行政法人 科学技術振興機構 「感情の中枢である扁桃体におけるドーパミンの役割を解明」

身体症状への恐れが緊張を呼ぶことも

対人恐怖症の人はしばしば、身体症状があらわれることにも悩んでいます。以前身体症状があらわれた状況と似た場面に直面すると、「また症状があらわれるのではないか」との恐れから余計に緊張し、身体症状を呼び起こすという悪循環に陥ることがあります。

パニック障害の発作との違い

対人恐怖症の人が不安を感じた時に起こる身体症状は、不安障害の一種である「パニック障害」の発作と似ています。どちらの疾患も、人前で症状や発作が起こることを恐れるあまり、人前に出る状況を回避する点が共通しています。しかし、対人恐怖症の症状とパニック症の発作は、起こり方に以下のような違いがあります。

 パニック症の発作:特に理由なく突然起こる
 対人恐怖症の症状:他人からの視線や評価を恐れるときに起こる
パニック障害とは?症状、治療、再発防止、仕事や日常生活をスムーズにおくるには?
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対人恐怖症の原因

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対人恐怖症を発症する原因は、明確にはわかっていません。遺伝的要因が関与することがわかっていますが、生育環境などの環境要因の方が大きいと考えられています。また、過去に失敗した経験が発症のきっかけとなることもあります。

不安や緊張は、扁桃体の働きが関係する

対人恐怖症の人が不安や緊張を感じる時は、扁桃体の活動が活発になっています。不安や緊張の記憶は海馬とともに扁桃体にも記憶されるため、似た状況に直面するたびに不安や緊張を感じます。

対人恐怖症は治るの?

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対人恐怖症は、放置していても改善する可能性は低いとされています。海馬や扁桃体に記憶された緊張や失敗の記憶から「次も失敗するかもしれない」という「予期不安」が形成され、不安や緊張を感じそうな状況を回避するようになるからです。回避行動が習慣になると、その状況に対する不安がより強くなるという悪循環に陥りがちです。

一方で、治療が可能な疾患でもあります。症状を放置せずに適切な治療を受けることで、症状の改善が期待できるといえるでしょう。

対人恐怖症の治療先

対人恐怖症の治療は、精神神経科や心療内科で受けることができます。

精神神経科は、心の病気を扱う診療科です。心療内科は、心の問題が関係して体の症状があらわれていると考えられる疾患を扱います。

対人恐怖症では多くの場合、精神的な症状と身体症状の両方があらわれるため、どちらの診療科でも治療対象となります。ただし現在では「対人恐怖症」ではなく、「社交不安症」との診断名がつけられます。

相談できる公共機関

病院へ行くのがためらわれる場合、まずは公共機関に相談する方法もあります。精神保健福祉センターは各都道府県、または各政令指定都市に1か所ずつ設置されており、心の不調や精神疾患などについての相談を受けつけています。センターによっては、医師や看護師、精神保健福祉士などが対応するところもあります。
参考 : 東京都保健福祉局「精神保健福祉センターとは」

対人恐怖症の治療法:精神療法(認知行動療法)

対人恐怖症の治療法には、精神療法と薬物療法の2種類があります。精神療法の代表的な治療法となるのが「認知行動療法」です。

対人恐怖症の人は、物事を否定的にとらえる傾向があります。そこで、認知行動療法によって、不安や恐怖につながっている否定的な認知(物の考え方や受け取り方)を、事実に沿った客観的なものに変えていきます。その上で、これまで回避してきた状況下での新たな行動パターンを定着させていきます。

対人恐怖症の治療法:薬物療法

薬物療法で使用される薬は、主に以下の3種類です。

抗うつ薬(SSRI)

うつ病の治療薬であるSSRIは、社交不安症治療で多く使用される薬です。安心や鎮静の情報を神経に伝える脳内物質「セロトニン」の濃度を高めることで、不安や恐怖をおさえます。

SSRIは効果が出るまでに数週間を要するため、中長期的な服用が必要です。服薬期間の間に「不安や緊張を感じなかった」という成功体験を重ねることで良い印象の記憶が残るため、対人恐怖症の改善が期待できるのです。

抗不安薬

抗不安薬は脳神経に作用し、不安や緊張をやわらげる薬です。即効性がある反面、効果は一時的です。長期使用では依存性があらわれる可能性があるため、あらかじめ不安になる状況が予想される場合に、不安を除去する目的で補助的に使用します。

β遮断薬

β(ベータ)遮断薬とは、正式には「交感神経β受容体遮断薬」と呼ばれる薬のことで、交感神経に作用し、動悸や震えなどの身体症状をおさえる薬です。

しかし、不安や緊張などの感情をやわらげることはできません。効果は一時的であるため、あらかじめ不安になる状況が予想される時に、身体症状を抑える目的で補助的に使用します。

仕事をするうえでの対人恐怖症との付き合い方

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どのような仕事でも、ある程度の他人との交流が必要となります。このため対人恐怖症の人は、仕事のさまざまな場面で困難に直面する可能性があります。

対人恐怖症の人が仕事で悩む場面とは

採用面接

対人恐怖症の人には、まず採用面接が大きなハードルとなることがあります。面接官の前で緊張が高まったり、身体症状があらわれたりした場合、自分自身について思うようにアピールすることができないなど、面接が不本意な結果に終わってしまうことがあります。

かかってきた電話をとる/電話をかける

オフィスで電話をとったり、かけたりする場合、周囲にいる上司や同僚に自分の受け答えを聞かれていることに緊張して、声が震えたり、スムーズな受け答えができないことがあります。

会議への出席

オフィスの自席での仕事には問題がなくとも、全員の顔が見えるように着席する会議への出席では不安や緊張が高まります。また、会議で発表する必要があるなど、他人から注目を集める場面では緊張し、声や手足が震えたり、赤面や発汗が起こることがあります。

治療により仕事上の困難は軽減できる

対人恐怖症の人が仕事上で直面する困難は、面接や会議など、緊張することがあらかじめ予期できる場合もあります。このような時には、前もって抗不安薬やβ遮断薬を服用しておくことで、身体症状を抑えることができます。

抗不安薬やβ遮断薬の服用は、対人恐怖症を根本的に治療する方法ではなく、対症療法なので、これらの薬の服用だけを継続することは避けた方が良いとされています。しかし、これらの薬を使って仕事上の困難を取り除きスムーズに仕事を進めることは、成功体験を積み重ねて自信を得ることに有用です。そして自信を得ることは不安そのものの解消に繋がります。

根幹となる治療に加え、抗不安薬等の補助薬もうまく活用できるよう、主治医の先生と相談しましょう。

対人恐怖症の症状を軽減するための日常生活での工夫

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治療以外にも、日常生活において以下のような工夫をおこなうことも、対人恐怖症の症状の軽減に役立ちます。

規則正しい生活

規則正しい生活は、対人恐怖症の症状改善のためにしたほうがいい基本的なことです。対人恐怖症の人は、脳内のセロトニンの量が低下しています。セロトニンは、人間の体の生体リズムに合わせて分泌されます。このため、十分なセロトニン分泌のためには「朝に目覚め、夜に眠る」という、人間本来の生体リズムに合わせて生活することが重要となります。

十分な睡眠

十分な睡眠は、対人恐怖症の身体症状の軽減に役立ちます。質のよい睡眠時は、交感神経を優位に導くアドレナリンやノルアドレナリンの分泌量が低下し、リラックス状態になります。

しかし、この働きが上手くいかないと睡眠不足の状態となります。アドレナリンやノルアドレナリンの分泌量は上がったままで維持されるため、睡眠不足時には体が緊張状態になっており、不安を感じる場面で身体症状があらわれやすくなります。

適度な運動

これまでの研究により、社交不安症を含む不安障害の改善には、適度な運動を習慣的におこなうことが効果があることがわかっています。早足でのウォーキングや水泳などの有酸素運動の効果が期待できるとされています。

運動は心身をリラックスさせ、良質の睡眠につながることからも、対人恐怖症の症状の軽減に有効だといえるでしょう。

まとめ

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対人恐怖症(社交不安症)は、治療が可能な疾患です。薬物療法や精神療法に加え、日常生活でも工夫をおこなうことで症状が軽減していきます。「性格だからどうしようもない」と諦めずに、医師や公共機関に相談してみることが、症状改善の一歩となるでしょう。
参考 : 山田和夫(監修 ) 「図解 やさしくわかる社会不安障害」 参考 : 山田和夫(監修) 「よくわかる社会不安障害―人前に出るのが苦手な自分を変える最新情報 (セレクトBOOKS) 」 参考 : 渡部芳德 「あがり症のあなたは〈社交不安障害〉という病気。でも治せます! 」 参考 : 貝谷久宣 「社会不安障害のすべてがわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)」 参考 : 貝谷久宣(編さん) 「不安症の事典 こころの科学増刊」
監修 : 増田史
精神科医、医学博士
慶應義塾大学 精神・神経科学教室 特任助教
滋賀医科大学 精神医学講座 客員助手

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