精神疾患とは、脳の障害や損傷などによる働きの変化のために、感情や思考、行動に著しいかたよりがみられる状態のことです。さまざまな精神症状、身体症状、行動の変化があり、日常生活や社会参加に支障が出る場合もあります。
精神疾患の医学的な原因は、明らかになっていませんが、本人の遺伝的特性と環境内のストレスとのバランスによって発症すると考えられており、誰でもかかりうる病気です。なお、脳内の神経伝達物質の乱れも発症に関連しているといわれています。
精神疾患は「気の持ちようだ」という、精神論的なものではないと理解することが大切です。
なお精神障害は、精神疾患のために精神機能へ障害が生じ、日常生活などに支障がある状態のことをいいますが、この記事では、精神疾患と精神障害をほぼ同義の意味としてとらえ、精神疾患という言葉に統一して説明します。
精神疾患の詳しい内容は、以下の記事でも紹介しているので、参考にしてください。
精神疾患にはさまざまな種類があり、症状もそれぞれ異なります。代表的な疾患には以下があります。詳しい内容はそれぞれの疾患について解説した記事を参考にしてみてください。
※1 双極性障害は現在、「双極症」という診断名となっていますが、最新版『DSM-5-TR』以前の診断名である「双極性障害」といわれることが多くあるため、ここでは「双極性障害(双極症)」と表記します。
※2 強迫性障害は現在、「強迫症」という診断名となっていますが、最新版『DSM-5-TR』以前の診断名である「強迫性障害」といわれることが多くあるため、ここでは「強迫性障害(強迫症)」と表記します。
※3 パーソナリティ障害は現在、「パーソナリティー症」という診断名となっていますが、最新版『DSM-5-TR』以前の診断名である「パーソナリティ障害」といわれることが多くあるため、ここでは「パーソナリティ障害(パーソナリティー症)」と表記します。
※4 パニック障害は現在、「パニック症」という診断名となっていますが、最新版『DSM-5-TR』以前の診断名である「パニック障害」といわれることが多くあるため、ここでは「パニック障害(パニック症)」と表記します。
※5 不安障害は、近年では「不安症」と呼ぶことが推奨されています。しかし「不安障害」という言葉も一般的であるため、ここでは「不安障害(不安症)」と表記します。
※6 適応障害は現在、「適応反応症」という診断名となっていますが、最新版『DSM-5-TR』以前の診断名である「適応障害」といわれることが多くあるため、ここでは「適応障害(適応反応症)」と表記します。
発達障害とは、生まれつきの脳機能の発達のアンバランスさと、その人が過ごす環境や人間関係とのミスマッチから、社会生活に困りごとがある障害に関する行政用語の総称です。代表的な発達障害としては、以下の3種類があります。
医学的には、発達障害は広義に精神疾患に含まれます。行政でも、障害者総合支援法の障害者の定義の中で「精神障害者(発達障害者を含む。知的障害者を除く)」と明記されており、精神障害者保健福祉手帳の対象となっています。 また、発達障害のある人が、ストレスなどで体調を崩して症状が悪化し、うつ病などの精神疾患を発症することがあります。発達障害とうつ病などの精神疾患が併存する場合、発達障害の特性に合わせた治療が必要になる場合もありますので、早めに医療機関へ相談しましょう。
※1 以前は「自閉症スペクトラム」「自閉症」などという名称が用いられることもありましたが、アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において自閉的特徴を持つ疾患が統合され、2022年(日本語版は2023年)年発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました。この記事では以下、ASD(自閉スペクトラム症)と記載しています。
※2 以前は「注意欠陥・多動性障害」という診断名でしたが、2022年(日本語版は2023年)発刊の『DSM-5-TR』では「注意欠如多動症」という診断名になりました。この記事では以下、ADHD(注意欠如多動症)と記載しています。
※3 学習障害は現在、「SLD(限局性学習症)」という診断名となっていますが、最新版DSM-5-TR以前の診断名である「LD(学習障害)」といわれることが多くあるため、ここでは「LD・SLD(限局性学習症)」と表記します。
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精神疾患(精神障害)のある人が抱える、仕事上のよくある悩み
精神疾患のある人は、仕事をするうえでどのような悩みを抱えているのでしょうか。いくつかピックアップして紹介します。
症状や特性によってなかなか体調が安定せず、仕事を続けることが難しいと悩んでいる人は少なくありません。人間関係がうまくいかず大きなストレスになっている、仕事内容が合わず続けることがつらい、以前よりも症状がひどくなって業務に支障がある、など仕事が続かない理由はさまざまです。
精神疾患のある人の多くは、不安や緊張が強く疲れやすいという悩みを抱えています。たとえば、周囲とのコミュニケーションが必要な場面で気を遣いすぎてしまう、仕事での些細なミスを重く受けとめてしまう、などです。
また、精神疾患の症状のひとつとして疲れやすいということが挙げられます。また、薬の副作用によって集中力や判断力といった脳の働きが低下している、という場合もあるでしょう。感覚の過敏性がある場合や環境の変化が大きい場合、睡眠がうまく取れていない場合なども、疲れやすくなります。
働き始めたときよりも、症状や障害の程度が進行した場合も、仕事の継続が難しくなることがあるでしょう。職場の人間関係が合わなかったことや業務内容が変化したこと、長時間勤務による負荷などが原因かもしれません。仕事だけでなく日常生活にも支障が出ると、勤務すること自体が難しくなる場合もあります。
仕事内容が合わない、想定していた業務内容と異なっている
人とコミュニケーションを取ることが苦手なのに顧客対応が多い業務だった、決められた業務をこなす仕事だと思っていたらイレギュラー対応が多かったなど、最初に想定していた業務内容と違っていた、ということもあるでしょう。自分の適正とは異なる業務を続けることは、負担になるかもしれません。
精神障害のあるなしにかかわらず、職場での人間関係は仕事を続けることと大きく関わってきます。特に疾患や特性について理解が得にくい場合、周囲の心無い言葉に傷ついたりすることがあるかもしれません。
精神疾患のある人が配慮を得られる職場も増えている一方で、社会全体では精神疾患への理解が進んでいるとは言い難いという点もあります。
後述する、オープン就労やクローズ就労など、働き方の違いにもよりますが、一般的に精神疾患は見た目からどのような困難を抱えているのか分かりづらい場合も多いでしょう。また、本人の努力不足だと誤解される場合も少なくないため、本人が無理して努力を続けた結果、症状が悪化してしまう、ということがあるかもしれません。
仕事の進め方にこだわりがある、ルールや規則を守ることが難しいなど、誰でも一人ひとり異なる特性はありますが、業務遂行に大きく影響する場合、困りごととして表れるケースもあるでしょう。
精神疾患のある人の中には、気分や体調がいいときと悪いときの波が激しいことに悩んでいる人もいるでしょう。特に、うつ病や双極性障害(双極症)は、気分のコントロールの難しさが症状のひとつでもあります。それが業務に支障をきたすこともあります。
特性や症状などによって、ストレスや環境の変化を感じやすいという人もいるでしょう。周囲の人からするとさほど問題にならないことも、本人にとっては大きな問題ということもあります。
ここでは、どのようなことに悩み、仕事や生活をしていたかなど、精神疾患のある人の就職・転職にまつわる体験談を紹介します。
「新卒入社の会社で、成果へのこだわりとプレッシャーから双極性障害(双極症)を発症。当初、疾患を開示しないクローズ就労を続けていましたが、疾患に理解がある環境で働きたいと考えるようになり、疾患を開示することを決意。」
「大学時代、就職活動などのストレスからうつ病・パニック障害(パニック症)を発症し、正社員雇用ではなく、勤務時間を調節できるアルバイト雇用を選び就職。職場の理解と協力を得ながら、体調の安定と仕事を両立させている。」
「最初の会社で、コミュニケーションが苦手でネガティブな評価をきっかけにうつ病を発症。二度の転職を経て、環境によって自分の力が発揮できることを意識できるようになった結果、現在の会社では管理職に。コミュニケーションに苦手を感じていたからこそ分かることを活かし、マネジメントに前向きに取り組んでいる。」
「コミュニケーションの困難、仕事を覚えられないことなどから10社以上を経験。適応障害(適応反応症)と診断され、その後発達障害も分かり、障害者雇用で現在の会社へ就職。以降月1回の就労定着支援を利用しながら働いている。」
上記はほんの一部です。ここでは紹介しきれなかった、さまざまな人の体験談が以下のWebサイトに掲載されています。ぜひ読んでみてください。
精神疾患(精神障害)のある人が仕事や働き方を選ぶポイント
仕事上での悩みや困りごとを少なくするために、どのような仕事や働き方を選ぶとよいのでしょうか。ポイントをいくつか紹介します。
気分や体調に波がある場合や、頻繁にコミュニケーションを取ることにストレスがある場合は、複数の仕事を同時に進める業務よりも、自分のペースで自分の仕事に専念できる仕事が向いている場合があります。
環境の変化やイレギュラーなことがストレスになる場合、業務の手順やスケジュールがある程度決まっている仕事は、働きやすい可能性があります。残業や出張、夜勤シフトがあるなど、生活リズムが崩れることも考えられるため、そのようなことがない仕事は働きやすいでしょう。
精神障害の人が働く場合、職種や仕事内容とは別に、一般雇用・障害者雇用などさまざまな働き方が選択できます。以下で紹介しますので、主治医などともよく相談し、安定して働き続けられる働き方を検討していきましょう。
まず、障害のある人の働き方には、大きく分けて「一般就労」と「福祉的就労」があります。
一般雇用は、応募条件を満たせば誰でも応募できます。障害があることを職場に開示して働くこともでき(オープン就労)、開示せずに働くこともできます(クローズ就労)。
障害者雇用とは、障害のある人が一人ひとりの特性に合わせた働き方ができるよう、一般雇用とは別で企業などが障害のある人を雇用することです。民間企業や国、地方公共団体には、従業員全体に対して障害のある人を一定以上の割合で雇用する義務があり、その目安となる割合を「法定雇用率」といいます。
障害者雇用はオープン就労のため、応募するときから就労条件や業務内容などについて相談しやすくなります。障害者雇用への応募には、原則として障害者手帳が必要です。企業などでの就労に加え、特例子会社で就労するという選択肢もあります。特例子会社は、障害のある人の雇用促進と雇用の安定を図るために設立されています。
福祉的就労とは、一般就労で仕事をすることに困難のある人が、障害福祉サービスの中で就労の機会を得て働くことです。雇用関係を結んで働く「就労継続支援A型」と、雇用関係は結ばずに生産活動を通して工賃を受け取りながら働く「就労継続支援B型」があります。 無料会員になりませんか?
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精神疾患(精神障害)のある人が安定して仕事を続けるためのポイント
精神疾患のある人が、無理なく長く働き続けるために、押さえておきたいポイントをご紹介します。
仕事を続けるうえで、治療と仕事を両立しながら働くということは大切なポイントです。
精神疾患の治療は長期に及ぶこともあり、症状や体調には波があります。また、症状をコントロールするための対処法や、それを支える環境調整も必要です。今後も長く働き続けるためには、仕事と治療を両立しながら、症状や体調の変化とうまく付き合うことがポイントです。
自己判断で通院や服薬を中断せず、主治医などとよく相談しながら進めましょう。
規則正しい生活を心がけ、体調の変化に気づけるようにする
食生活や睡眠リズムの乱れは、体調不良や症状の悪化を招くおそれがあります。バランスの取れた食生活や、適切な睡眠時間の確保、適度な運動など、規則正しい生活を心がけましょう。
人によって異なりますが、睡眠や食生活の乱れが精神状態の悪化の予兆になる場合もあります。体調の変化に合わせて、仕事の量や休憩の取り方を工夫したり、早めに支援機関に相談したりするとよいでしょう。
仕事をするうえでストレスは避けて通れませんが、ストレスを溜め込み続けると体調や症状の悪化につながる場合があります。日頃のストレスを解消するための、自分なりのリフレッシュ方法を見つけておくとよいでしょう。
軽い運動やリラクゼーション、趣味、旅行など、自分に合ったリフレッシュ方法を取り入れ、ストレスを溜め込まないようにしましょう。
仕事での悩みや困りごとは早めに相談できるよう、相談先の確保も大切です。信頼できる上司や同僚、主治医や社内の産業保健スタッフ、家族や友人・恋人、以前に働いていた職場の人でもいいかもしれません。
安心できる相談先の確保が難しい場合は、以下のサービスを利用してもよいでしょう。
仕事について悩んでいるときや、まだ医療機関を受診しておらずこころの不調が続くときは、以下の相談先なども活用しましょう。仕事以外の困りごとが相談できるところもあります。
こころの健康相談統一ダイヤル
働く人の悩みホットライン
こころの耳 相談窓口案内 など
そのほか、保健所や精神保健福祉センターの窓口でも相談を受け付けています。困ったときは、気軽に利用してみましょう。
体調を安定させながら長く仕事で活躍し続けるためには、通院や休養、勤務時間の調整など、職場の理解と配慮を得ることが大切です。心身への負荷を減らすために、残業は避ける・服薬の時間は休憩を取るなど、業務の調整ができるよう職場の上司や産業医などに相談してみましょう。これらを「合理的配慮」といいます。
合理的配慮とは、障害や難病のある人が日常生活や社会生活をおくるうえでの困難さを、その人に合わせたサポートや環境調整によって軽減するための配慮のことです。障害者手帳のあるなしにかかわらず、事業主の合理的配慮提供義務の対象になっています。
合理的配慮は、事業主への負担がかかりすぎない「合理的」な範囲内としてよく話し合い、事業者側は公的な助成金も活用しながら検討していきます。配慮してほしいことがすべて受け入れられるわけではない、ということも知っておきましょう。
また、疾患や症状の程度、職場環境などによって一人ひとり配慮の内容は異なります。どのような調整があると安定して仕事が続けられそうか、主治医とよく相談しましょう。合理的配慮の詳細や具体的な例は、以下の記事を参照ください。
精神疾患(精神障害)のある人の仕事探しで利用できる支援
精神疾患のある人が、おもに仕事に関して利用できる支援について紹介します。
ハローワークとは、無料で職業紹介や就労支援サービスを行う職業紹介所です。一般相談窓口のほかに、障害のある人のための「障害者関連窓口」があります。障害に関する専門知識を持つ相談員がいるため、仕事の困りごとや障害者雇用など働き方の相談もできます。
障害者就業・生活支援センター(通称なかぽつ、就ぽつなど)は、障害のある人が生活や仕事などについて相談できる施設です。仕事探しや入社前後のサポートなど、就労機関・福祉機関と連携した幅広いサービスを受けられます。
地域障害者職業センターは、障害のある人に対して専門的な職業リハビリテーションを提供している施設です。専門性の高い支援が特徴で、ハローワークや企業、医療や福祉などと連携し、就職を希望する一人ひとりのニーズに合わせた職業リハビリテーションを提供しています。
地域若者サポートステーション(通称「サポステ」)は、働くことに困難がある15歳~49歳の人へ向けた就労支援を行っている機関です。就労に関する相談・面談、転職に関する指導など、障害の有無にかかわらず支援を受けることができます。
精神疾患を原因として休職している場合、リワーク支援を利用することもできます。リワーク支援とは、職場復帰に向けたリハビリテーション(リワーク)を実施する機関で行われるプログラムです。医療機関や地域障害者職業センター、就労移行支援事業所、各企業内などで実施されています。
就労移行支援とは、障害者総合支援法に基づいて定められた障害福祉サービスのひとつです。 障害や難病のある人が、企業などと雇用契約を結んで働く「一般就労」を目指すときに利用できます。
決まった日時に就労移行支援事業所に通い、働くための知識やスキルの習得をします。 支援スタッフと一緒に、就職活動に向けた準備を行います。 就職活動中のサポートやさまざまな職場での実習(インターン)、また就職が決まった後も、安定して働けるよう仕事面や生活面での支援を受けることができます。
就労継続支援も、障害福祉サービスのひとつです。働き方で紹介した通り、一般就労で働くことが難しい人が、障害による困りごとや体調に合わせて、福祉的就労の中で自分のペースで働くことができます。就労継続支援はA型とB型の2つに分かれます。
精神疾患がありながら仕事を続ける中で、仕事が続かない、理解が得にくいなどの悩みを抱えている人は多くいます。仕事選びや働き方を検討するポイントや、安定して働き続けられるポイントを紹介しました。
さまざまな支援や相談先を十分に利用しながら、体調や症状に合わせて、無理なく働ける仕事を探していきましょう。