適応障害(適応反応症)(※)とは、生活や仕事上でのなんらかの出来事や環境によるストレスが原因で、心身にさまざまな症状があらわれる精神疾患です。抑うつや不安、いらだち、集中力の低下、不眠、食欲の減退など気分や身体症状の変化などがみられることがあり、社会生活に困難さを感じることがあります。
適応障害(適応反応症)は明確なストレスによって発症するため、多くの場合、原因となっているストレスが解消されると、6か月以内に症状が治まることが多いとされています。
(※)適応障害は現在、「適応反応症」という診断名となっていますが、最新版『DSM-5-TR』以前の診断名である「適応障害」といわれることが多くあるため、ここでは「適応障害(適応反応症)」と表記します。
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適応障害(適応反応症)になりやすいケースとは?環境と個人的な要素の関係性
適応障害(適応反応症)は、なりやすい人がいるわけではなく、誰でも発症する可能性がある疾患です。
前述の通り、適応障害(適応反応症)は強いストレスによって発症しますが、そのストレスによって、適応障害(適応反応症)を発症する場合もあれば、発症しない場合もあります。これは、人によって物事のとらえ方や性格、ストレス耐性、ストレスへの対処法が違い、同じ出来事や状況でも、感じるストレスの程度が異なるからです。
また、その人を取り巻く環境の違いによっても変わってきます。ストレスを解消しやすい環境があるか、他者の協力やサポートが得られるか、などによってもストレスのとらえ方や感じ方には違いがあるでしょう。
上司にミスを激しく責められた場合、非常につらく感じるケースがあれば、あまりつらいと感じないケースや、逆に失敗も経験のうちとポジティブに受けとめるケースもあるでしょう。
これには、その状況における個人のとらえ方やパーソナリティの違いといった個人的な要素が影響している場合もあります。しかし、ほとんどの場合には、取り巻く状況や環境が少なからず影響をもたらしています。
たとえば、上司の激しい叱責という状況も、職場で絶対的な権威をもつ上司の叱責と、周囲から尊敬されていない上司の叱責では、ストレスの感じ方は異なるかもしれません。あるいは、その職場のハラスメントに対するリテラシーが低いか高いかによっても、個人のとらえ方は異なる可能性があります。また、ミスという状況も、取り返しのつくミスとそうではないミスとでは、ストレスの感じ方は異なるでしょう。
このように、ストレスを感じやすい、感じにくいといった個人的な要素と、発生したストレスフルな状況にどのような文脈や環境があるかによって、適応障害(適応反応症)となりやすいかどうかが異なってくると考えられます。
つまり、適応障害(適応反応症)はその人のストレスの感じ方と、遭遇したストレスや環境とのミスマッチによって起こるため、なりやすい人がいるわけではなく、誰でも発症する可能性があります。
適応障害(適応反応症)になりやすいケースを環境ごとに紹介
次に、適応障害(適応反応症)のケースを紹介します。
仕事がおもな原因と考えられるケース、環境の変化がきっかけとなるケース、人間関係の影響があったケースの3つに分けて紹介し、体験談も併せて掲載します。
ケース1.仕事が原因で適応障害(適応反応症)になるケース
仕事や職場の人間関係によるストレスが原因で発症するケースは多くあります。たとえば、以下のような状況です。
業務内容が自分の適性に合わず、失敗が続いている
自分の能力を上回る高度な知識や技術を求められる
業務量が多く、長時間労働が慢性化している
上司や同僚とのコミュニケーションがうまくいっておらず、業務がスムーズに進まない
職場に気軽に相談できる人がいない、孤立している
パワハラやセクハラ、マタハラなどハラスメント行為がある など
新卒入社2か月後、目まぐるしく変わる仕事や生活環境の変化により適応障害(適応反応症)を発症。休職して、病気を治したい、という想いから休職を決意し、治療を続けています。
ある朝吐き気で会社に行けなくなり、適応障害(適応反応症)と診断され休職。休職中に発達障害と診断され、障害者雇用で転職しました。好きな仕事ができるようになり、自分の障害も受け入れられるようになりました。
ケース2.環境の変化で適応障害(適応反応症)になるケース
就職、昇進や異動、転職といった仕事環境の変化や、引っ越しや結婚といった生活環境の変化によるストレスが発症の原因となる場合もあります。たとえば、以下のような状況です。
仕事で新しい配属先に異動したが、なじめずコミュニケーションが思うようにとれない
新卒入社に伴う初めての一人暮らしに悪戦苦闘し、生活がままならない状況になった
がんなどの大きな病気で、病気で通院しながら仕事を続けることになった
転職や異動に伴う引っ越しで、子どもが学校になじめず親としても頼れる人もいないまま、新しい土地で生活を始めた など
就職活動をきっかけに適応障害(適応反応症)と診断され、障害者雇用でキャリアをスタート。仕事への義務感から、頑張りすぎて身体を壊し退職。2年の療養期間を経て働き方を変更し、義務としての『仕事』から、『楽しく働こう』へキャリア観も変化しました。
ケース3.家族や友人などの人間関係が原因で適応障害(適応反応症)になるケース
仕事での人間関係、家族や友人などとの人間関係のストレスによって適応障害(適応反応症)を発症する場合もあります。たとえば、以下のような状況です。
新たな配属先や異動先の人間関係になじめず、孤立している
テレワークに対して家族の理解や協力が得られない
両親に仕事の大変さを理解してもらえず、関係のない過去のことを持ち出されて文句や愚痴を言われ続ける
友人から一方的に無視される状況が続く など
人間関係が原因でアルバイトなどを転々とし、適応障害(適応反応症)と診断されました。就労継続支援B型を利用しはじめ、働くペースと仕事内容がマッチするようになりました。家族からも明るくなったと言われ、体調も上向き、やりたいことが増えています。
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病院への受診の目安・適応障害(適応反応症)の診断方法は?
適応障害(適応反応症)は明らかなストレスが原因で発症するため、早期に病院を受診し、専門の医師にアドバイスをもらうことで、早期回復が見込める場合があります。
適応障害(適応反応症)の症状は、気分の落ち込みや不安、焦燥感、不眠、頭痛などさまざまです。受診の目安は、普段よりも明らかに眠れないなど、自分でも感じる普段と違う様子がでているときです。受診は大げさかもしれないなと思った場合は、以下などを活用して今のストレスレベルを知ることも大切です。
職場で実施されている、ストレスセルフチェックの結果
厚生労働省のWebサイト「こころの耳」で、ストレスに関するセルフチェックを行った結果
これらの結果も参考にして、早めに精神科や心療内科などの医療機関を受診しましょう。
適応障害(適応反応症)の診断に際しては、ストレスの原因から3か月以内に著しい苦痛を伴う症状が出現していること、社会生活で重大な障害となっていること、なんらかのほかの精神疾患などの基準を満たさないことの確認が必要です。ストレスの原因から離れると、通常はその後6か月以内に症状が治まるといわれています。
ストレスの原因が持続していたり取り除けなかったりして症状が6か月以上続く場合には、持続性(慢性)適応障害(適応反応症)と診断されることもあります。ただし、症状が長期間にわたっている場合には、抑うつ状態や不安など精神症状の程度も強くなっていることが多いため、うつ病や不安症などほかの精神疾患の鑑別も必要になります。
症状があらわれているときは、ストレスによって心身のエネルギーが低下し疲弊している状態です。ストレスの原因を克服しようと頑張るのではなく、ストレスから距離をとり、休養することが大切です。
自分でできる具体的なストレス対処法は、以下が挙げられます。
腹式呼吸やストレッチ、ヨガなど、自分に合ったリラクセーション法を身につける
ウォーキングやジョギングなど手軽にできる運動をする
家族や友人、親しい人と話したり、悩みを相談したりする
上司や同僚など信頼できる人に相談する
仕事と離れた趣味の時間をもつ など
ただし、仕事や人間関係など自分だけでは解決できないストレスの場合は、職場などに相談しながら環境を調整することも必要となるでしょう。職場の環境調整については、以下の記事を参考にして、次のステップを検討してみましょう。
職場の人、家族や友人に相談することが難しい場合や、一人で対処することができない場合には、専門家に相談することもおすすめです。
仕事に関する相談は、会社にカウンセラーがいる、もしくは社外に提携しているカウンセラーがいる場合がありますので、会社の人事部などへ確認しましょう。また、家族や友人に関する相談や、会社に相談できる場所がない場合は、以下の相談先を活用してもよいでしょう。
精神科や心療内科などの医療機関で、心理士が行うカウンセリング
私設のカウンセリングルーム
公認心理師や臨床心理士の養成校となっている、指定大学院の「心理臨床センター」など
精神保健福祉センターや保健所・保健センター
心理療法・心理的介入はさまざまな精神疾患の治療に活用されており、方法も多様です。
まずは医療機関を受診し、治療方針を主治医と相談しながら決めていきます。治療内容や回数など、治療の詳細は一人ひとり異なります。精神科や心療内科、私設のカウンセリングルームなどで、心理士などの専門家と一緒に取り組むことが多いようです。
気分の落ち込みや不安といった精神症状や、不眠などの身体症状によって生活に支障が出ている場合は、睡眠薬や不安な気持ちを落ち着かせる抗不安薬、うつ病の症状に作用する抗うつ薬が処方される場合もあります。
ただし、適応障害(適応反応症)の場合、薬物療法はあくまで症状を一時的に和らげる対症療法です。回復のためには、原因となっているストレスを解消することが大切です。
適応障害(適応反応症)は、なりやすい人がいるわけではなく、誰でも発症する可能性がある疾患です。
適応障害(適応反応症)を発症したら、まずは原因となるストレスから離れ、医師などと相談しながら対処法を決めていきましょう。症状があらわれているときは、心身共に疲弊し生活に支障がでている状態なので、十分に休養をとって、心身の回復に努めましょう。