「空気を読む」ってなに?コミュニケーションの謎を解いてくれたある学びと理由

更新 2024/07/23 公開 2024/08/06
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ASD(自閉スペクトラム症)があり、子どもの頃からコミュニケーションが苦手だった私。でも言葉に対して学問的な強い興味があり、この興味が私を救い、成長させてきてくれました。今回は私と「言語の勉強」との関係についてお話しします。
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目次

  1. 子ども時代からコミュニケーションが苦手だった
  2. 英語との出あい、言葉への興味
  3. 英語が違う自分を見せてくれた
  4. 日本語教師の勉強が、コミュニケーションへの深い理解を促してくれた
  5. ふだん使っている日本語を見つめ直すことが大きな契機になる
  6. 監修:森先生より

子ども時代からコミュニケーションが苦手だった


子どもだった30数年前当時、自分の発達障害に自覚はなく、コミュニケーションが苦手だという観点もなかった私。けれど、周囲からは「周りを見ていない」「人の気持ちがわからない」「空気が読めない」というようなことを言われ続けました。

事実は事実として言っていいと思っていて、思ったことはなんでもストレートに言ってしまう。クラスの中の自分の立ち位置や、ほかの子同士の相対的関係という、社会的文脈を読むことができない。この結果、クラスの中で常に浮いていたし、いじめられたり、担任から言動を悪意からくるものと誤解されて激しく叱責されたりもしました。


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英語との出あい、言葉への興味


物心ついた頃から、言葉に並々ならぬ興味があった私。おそらく、ASD(自閉スペクトラム症)の「興味の限局」に類するもので、恐竜博士や虫博士がいるように、私は言うなれば言葉博士でした。小学校低学年の頃から、お菓子のパッケージの説明書きや算数の文章題を見て、「この説明は日本語としておかしい!」などと怒ったりしていたのです。

中学になって英語を勉強するようになると、英語が大好きになりました。英語が持つ、日本語とは違った構造も素敵でしたし、単語の語源をたどるのも好きでした。

高校1年生のとき、夏休みいっぱい、6週間のオーストラリア短期留学をしたのですが、英会話が「ジスイズアペン」状態だった私は興味の赴くままどんどん英語を吸収し、日常会話に難ないぐらいペラペラになって帰ってきました。

同時に留学したメンバーは10人以上いましたが、私1人が飛び抜けて上手に。その後英語圏の人と話して「6週間の短期留学をした」と言うと、しょっちゅう「6ヶ月の間違いじゃなくて?」と驚かれたぐらいです。

この言葉の吸収の良さは、私の「言語理解IQ129」という、言語に関する分野のIQの高さも大きく影響していたと思います。英語の授業中、英語辞書の語源の欄を一つひとつ読み込むのがとても楽しかった!


英語が違う自分を見せてくれた


大学生になると、アメリカの大学に2週間の短期留学に行き、英語で授業を受けました。高校生のときのオーストラリア短期留学でも思ったのですが、英語圏だと私は外国人なため、 母国である日本と違って コミュニケーションの仕方≒性格 とならないためか、すごく楽でした。

英語の方が日本語よりも低コンテクスト(暗黙に共有される情報が少ない)というのも、暗黙の情報を読み取るのが苦手で、なんでもストレートに言う私には楽でした。水を得た魚のように場を楽しんでいたと思います。

なお、あとで理解したことには、外国人扱いで甘い評価をしてもらえるのはせいぜい英会話中級まで、滞在が短い間だけ。英語がある程度以上流暢になり、周囲からも地元の人という認識をされると、浮いた言動はやはり個人の性格の問題として判断されてしまうことも多いようです。

また、英語にも婉曲な表現はあって、20年近く経ったあとになって「あ、あれは嫌がられていたんだ!」「断られていたんだ!」と気づいた件もいくつもあります。

それでも、英語という第二言語を使えることはとても私の助けになりました。

20代のある時期、私は自分の意見(好き嫌いや価値判断など)が常に親におもねっていたことに気づき、ショックで数ヶ月喋れなくなったことがあります。このとき、まず簡単な英語から喋れるようになり、徐々に日本語が戻ってくる、という不思議なことが起こりました。
いま分析してみて、以下のように考えています。

おそらく、日本語が母語であるゆえに、一つの言葉にくっついてるニュアンスや記憶が豊富すぎて、実存の感覚が混乱している時期には負担が大きすぎた。いっぽう英語は第二言語であるゆえ、良くも悪くも語彙が限られているので、自分の価値観を再構築していこうという時期には手頃だった。

また、英語は「統語機能が強い」と言って、常に主語が必要だったり、文の構成が日本語よりもかっちり決まっています。たとえば、必ず、I → feel/think → 感情や考え という構造になる。この「統語機能の強さ」という要素が、自分の感情や価値判断、思考を整理する際強力な背骨のようになってくれました。


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日本語教師の勉強が、コミュニケーションへの深い理解を促してくれた


私は最近、日本語教師養成講座を修了したのですが、これがまたとても意義深い体験となりました。

日本語教師とは、日本語を母語としない人に、第二言語としての日本語を教える「日本語の先生」です。私は日本語教師養成講座で初めて、母国語である日本語を第二言語として見ることになったのですが、私は勉強を進めるうち、あることに気づいてしまいました。

私は、日本語が母国語なのに、第二言語のように日本語を使っていたのです。

子どもの頃は自分にASD(自閉スペクトラム症)があることを自覚していませんでした。でも、30歳で自覚して以降は、自分なりに「明言されていない文脈を読まなければいけないんだ、いわゆる『空気を読む』をしなければいけないんだ」と思って、訓練を重ねてきました。

たとえばこんな感じ。

・この人はAと言っているけど、もしかすると言外にBと言いたいのかな? つまりこの文意はBということ?
・私はAと言いたいけど、Aと言うと相手を不快にさせるかもしれないから、Bの言い方をしよう
・私は天気の話とか雑談の意味がわからないけど、どうもみんなには大事なようだから、天気の話とか雑談をしよう

養成講座で第二言語習得や言語学の知識を身につけた目で見ると、こうした行為は私が常にASD(自閉スペクトラム症)である私の考えを社会で一般的に使われる「日本語」の表現に翻訳しながら(定型発達の)日本人とコミュニケーションをとっていた、ということになります。

言語は、語彙や文法を完璧に身につけただけでは習得したことになりません。その言語が持っている文化や社会的文脈… 何をどこまではっきり言うか、相手への配慮を示すときに何を大事にするか、誰をどのように敬うかなどまで理解して使えるようになって、初めて習得したと言えるのです。

つまり、私は、日本語の語彙や文法は完璧でも、日本語話者としてはおそらく中級程度だったのです! まさに、私にとっては日本社会で話されている日本語は第二言語だったのですね。

そう理解したとき、初めて、言語フリークとして俄然やる気がわいてきました。「空気を読む」を積極的にやろうと思えるようになったし、やり方も網羅的に理解できることになったのです。


ふだん使っている日本語を見つめ直すことが大きな契機になる


母語であるからこそ知らないことが多いのが、日本語母語話者にとっての日本語です。第二言語を学んで日本語と比較するなり、第二言語習得論や言語学を学ぶなりすることで、日本語が相対化できて、とても多くのことに気づくことができます。

特にASD(自閉スペクトラム症)の人には、言語学の中の「社会的語用論」という分野を学ぶことをおすすめしたいです。社会的語用論では、いわゆる「空気を読む」行為のことが、理論的に網羅的に触れられています。日本語に限らず多くの言語話者が… 低コンテクストと言われる英語でさえ… いかに社会的文脈を重視しているかが分かるでしょう。むしろ社会的文脈が言語コミュニケーションの中核であるかもしれないことも理解でき、目から鱗がザラザラ落ちるかもしれません。

執筆/宇樹義子 (そらき・よしこ)

監修:森先生より


宇樹さん、貴重な体験談をありがとうございます。

日常生活で無意識に使っている日本語を、改めて言語として学ぶことで多くの気付きが得られたのですね。日本語ではどうしても、共通の知識や背景を持つことを前提とした、いわゆる「曖昧な」表現が多くなりますよね。

さて、「社会的語用論」という単語が出てきましたが、初めて耳にしたという方もいらっしゃるかもしれません。「言葉」というものには、「文字通りに表す意味」とは別に、「場面や相手との関係の中で表す意味」がありますよね。日常会話ではプログラミングのような直接的なやりとりは少なく、相手の言葉の意図を推測して、共通の理解を前提とした受け応えをするものですよね。そういったやりとりは、発達障害がある方にとっては難しいことが多いのです。言語能力が高くても、日常生活での会話で必要な文脈を理解することが難しいなど、コミュニケーションで困難を抱える方は少なくありません。

宇樹さんは「言語」が好きで「言語の勉強」が得意なので、「社会的語用論」の理解を深めることで、コミュニケーション能力の成長につながったのですね。 意を活かして成長するという、素晴らしいパターンなのではないでしょうか。これからも応援しております。
監修者の写真
監修 : 森しほ
ゆうメンタル・スキンクリニック理事
日本抗加齢医学会専門医/産業医/公認心理師
・ゆうメンタルクリニック(上野/池袋/新宿/渋谷/秋葉原/品川/横浜/大宮/大阪/千葉):https://yuik.net/
・ゆうスキンクリニック(上野/池袋/新宿/横浜):https://yubt.net/
執筆者の写真
執筆 : 宇樹義子 (そらき・よしこ)
1980年生まれ。ASD、複雑性PTSD。2015年に発達障害当事者としての活動を始め、その後LITALICO発達ナビなどで連載開始。2019年『#発達系女子 の明るい人生計画』、2021年『1980年生まれ、佐藤愛』を出版。2024年現在、複数メディアで活動を続けながら、次の発信を模索中。
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