障害があると何をするにも時間がかかる…追い詰められた過去を乗り越え、自分を支える「杖」を見つけて
更新 2024/09/27
公開 2024/09/30
更新 2024/09/27
公開 2024/09/30
こんにちは、くらげです。残暑が厳しい9月でしたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。私はここのところあまり体調が良くなく、かといって仕事を終わらせないことにはお賃金も入らない、というところで必死に手を動かしているところです。
障害を抱えながら仕事をするうえで困ることはいろいろあると思うのですが、おそらくその中に一つに「何をやるにしても定型発達の人より時間かかる」ということもあると思います。
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こんにちは、くらげです。残暑が厳しい9月でしたが皆さんいかがお過ごしでしょうか。私はこのところあまり体調が良くなく、かといって仕事を終わらせないことにはお賃金も入らない、というところで必死に手を動かしているところです。最近は睡眠の不安定による昼夜逆転も極まり、朝日を浴びながら寝て、夕日が沈む頃に起きるということも珍しくありません。あまり身体に良くない気はするのですが、どうにも無理に昼間起きているとするとさらに体調が悪化するというわけの分からない状態になっています。一人で仕事をする分には困らないのですが、昼間に起きて用事をしなければならないときなどは寝不足状態になるのでかなりしんどいです。せめて睡眠時間だけはなんとかしたかったんですが。
さて、LITALICO仕事ナビをご覧になっている方はお仕事をしていたり、仕事を探している方が多いと思います。障害を抱えながら仕事をするうえで困ることはいろいろあると思うのですが、おそらくその中に一つに「何をやるにしても定型発達の人より時間かかる」ということもあると思います。足が悪い方なら車椅子で移動できる場所が限られて遠回りしなければいけなかったり、手すりなどを使っても歩くのが遅い、ということもあるでしょうし、視覚障害の方はテキストを読むのに時間がかかるということもあると思います。私自身は、聴覚障害があり聞き返すことも多くて確認に時間が取られたり、ADHD(注意欠如多動症)の特性からくる忘れ物や置き忘れが多くなったりして無駄な時間を費やすことも少なくありません。このほかの障害についても「普通の状態よりも時間がかかる」というのは、本当にたくさんあると思います。
また、仕事や通学だけではなくて、障害があると手続きのために役所に行ったり、病院や薬局に行ったりすることも増えていきます。この時間も重なっていくと莫大な量になりますし、場合によっては有給休暇などをあっという間に消化してしまったり、短時間勤務を余儀なくされたりすることもあります。人間に平等で与えられているのは時間だけ、ともいいますが、この時間を仕事や勉強、余暇に使える割合がそもそも少ない、というのが障害のある人にとって仕事や生活を送るうえで大きなネックになっているのではないかと感じています。
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わが家の場合、夫婦共に障害があります。私自身の通院や役所への手続きなどで頻繁に時間を取られますし、同じくASD(自閉スペクトラム症)と精神疾患・てんかんのある妻の通院付き添いで車を出す……となるとそれだけで週1~2日は仕事に集中できる日は減ります。その限りある時間の中で私は、ADHDの混乱状態をなんとか抑えて仕事をしています。また、耳の不調からくる耳鳴り・めまいなど、謎の体調不良にも悩まされており、私の場合、万全に仕事ができる日というのは1か月の中で7〜10日ほどではないかと思います。その万全に仕事ができる日は、普段の仕事の遅れを取り戻すのに必死で「先に備えて仕事を前倒して進める」「将来のための勉強する」というような余裕はなかなか作れません。本当にもっと時間がほしいと常々願っています。しかし、この先は加齢による身体の衰えなどもあると考えると使える時間はますます減っていくと考えたほうがいいのでしょう。
しかしまぁ、障害者の困りごとというのはもちろん「直接的に困ること」も大きいとは思うのですが、こうずらずら書いてみると、時間というリソースが大幅に削られてしまうといった間接的な影響も決して無視はできないと改めて感じます。しかし、このあたりの「問題」についてはあまり論じられることも少ないように思いますので、だれか研究して「障害者のための時短術」のような本を作ってくれないかと願ってやみません。
まぁ、そういう愚痴を言いつつも、なんとか時間を作るためには、タイマーを使って作業時間を把握したり、ガントチャートを組んでみたりなど、自分でいろいろと工夫していくしかないのでしょう。私の場合、重度聴覚障害があるのでそのままでは電話やオンライン会議は難しいですが、人工内耳を入れることでそれらができるように工夫しています。ADHDの薬を飲んで集中力を整えるということも広く見れば「なんとか時間を作ること」につながっているのかもしれません。とにかく「思いつく限りいろいろ工夫をしてみる」という頭の働かせ方を否応なく求められているように感じています。障害のあるほかの皆さんもこのような苦労を重ねて、自分なりの生存術のようなものを持っているのではないでしょうか。この「生存術」を広く集めて研究すれば定型発達の人でも使えるライフハックがどんどん生まれていくと思います。これについてもだれか研究して本を作ってほしいですね。
「定型発達の人と同じように」と自分を追い詰めた過去
まぁ、それはともかくとしても、時間もできることも体力も限られる中で生きるということは、それだけで「定型発達の人と同じように生きる」ことはよほどの超人でもなければ難しいことなのかもしれません。しかし、障害者として仕事をしたり学校に行ったりする場合、仕事の量や勉強しなければいけないことが減るわけでもありません。また、障害のある私たちも人間ですから、向上心もあれば劣等感も抱えます。障害があることで舐められたくないとか、障害があってもどうしてもやりたいことがあるとか、そういうことは当たり前にあります。しかし、闇雲に「定型発達の人とすべて同じことをしたい」と考えると自分を追い詰めるばかりになって、つらいこともあるかもしれません。
前回のコラムで書きましたが、私の祖父も聴覚障害者でしたが、どちらかといえば超人寄りで定型発達の人たちの中でも頭角を表してガンガン仕事をする人でした。そういう祖父の背中を見ているので私の中に「障害者だけど定型発達の人たちに負けてはいけない」というような『常識』が育まれていきました。それはそれで良かった面もあるのですが、同時に「定型発達の人ができることができない自分が情けない」と思ってしまうことの裏返しでもありました。ある意味「自分が障害に負けること」に耐えられなかった、ということもあるのかもしれません。それで私は躁鬱的な症状になり、一度は社会からドロップアウトすることになりました。
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しかしまぁ、いろいろ考えてみると、「定型発達の人」もさまざまで、それぞれの事情があり「全力を出せる日」も意外と限られていると思いますし、能力の偏りもあって、できることやできないことがそれぞれ違います。というか、人間は一人ひとりができることが限られているので、それらを補い合うために社会というものが発展してきたのではないでしょうか。障害のある人の中には「定型発達の人というのは一人ひとりがなんでもできて、自分のできないことを簡単にできてしまうすごい人たち」だと思う人もいるかもしれません(少なくとも自分はそう思っていました)。でもまぁ、冷静に見てみればそんなわけでもなく、障害があってもなくてもそれぞれに個性があって、できることできないことがあります。だから「定型発達の人」というある種の理想像というか概念を持っていてそれと競り合うような状態になっているなら、一度その「概念」をおろして、「本当に自分のやりたいことは何か」「どんな自分になれたら自分が納得するのか」というところをしっかり考えたほうがいいかもしれませんね。
と言いつつも、私自身もそんなにはっきりと(40歳になっても)自分の人生がどうなったら納得するかなんて見えていません。とにかく、目の前のことをこなして生活を成り立たせるのが精一杯です。それでも私には一つだけ「自分には書くことだけはできる」という謎の自信があります。
障害があることがつらくてキツいと感じていると、定型発達の人と自分を比較して落ち込んでしまうかもしれません。しかし、何か一つでも「これは自信がある」というものを掴み取ることができれば、それだけで前を向いていきやすくなるかもしれません。それが何かは、本当にその人次第でしょうし、それが仕事には直接使えないかもしれません。でも、それは自信につながり、自信が自分を支える「杖」になっていけば少なくとも次の一歩を踏み出すことができる。そのように信じて、私も頑張ってこのコラムを書き終えて次の仕事に向かおうと思うのです。
くらげさん、生活の中での困りごとの体験談をありがとうございます。障害があると、何をするにも定型の方よりも時間がかかると感じられているのですね。
障害があっても工夫をして改善していくことはできますが「はじめから障害がなければもっと苦労せずに済んだのに」と思われることはあるかもしれません。時間を取られてしまうことによる負担は相当なものですよね……。
ただ、今は「発達障害」というものが世間に知られるようになってからまだまだ日が浅く、発達障害の方向けのライフハックが集まっている最中です。
当事者の1人ひとりが困りごとや対応策を発信していくことで、世の中全体はどんどん暮らしやすくなってきているものと思われます。
小さな困りごとへの対応策が蓄積されている時期ですので、小さな対応策が積み重なることによって、いずれはもっとトータルでの負担を減らすメソッドも考案されるのではないでしょうか。
研究が進んで、発達障害のある方が時間を取られずに済んで、負担感なく暮らせて、自信を持って生きていけるようになるのが、ひとつのゴールと言えるのかもしれません。
くらげさんの発信が、そのゴールのための大きな助けとなっていると信じております。
執筆 : くらげ
聴覚障害とADHDの重複障害者。フリーランスのライターをメインにしつつ、障害者専門クラウドソーシングサービス「サニーバンク」のアドバイザーやメンタルヘルス系SNS「いつでもおかえり」の広報なども行っている。趣味はガジェットで遊ぶこと。著書に『ボクの彼女は発達障害』(学研プラス)がある。