転職を繰り返した20代。障害者雇用にたどり着いた私が思うメリットと課題の乗り越え方
更新 2024/10/08
公開 2024/10/08
更新 2024/10/08
公開 2024/10/08
はじめまして。私はASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)を抱えながら、障害者雇用で働く30代の会社員です。今回は、私の経験を踏まえ、障害者雇用で働いてよかったことについてお話しします。
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私は学生時代の勉強や日常生活では不便を感じる場面が少なかったものの、就職活動に苦戦しました。社会人になると仕事を長く続けていくのが難しく、短期離職に悩みました。私は現在34歳で、大学卒業時は障害者雇用促進法(※)の改正前でした。2024年の今では発達障害や障害者雇用に対する理解や認知度は以前よりも高まっていると感じていますが、この頃は発達障害そのものや特性からくるコミュニケーションの難しさ、注意欠如などの理解を得るのが今よりも難しい状況でした。 ※障害者雇用促進法では、障害のある人の職業の安定を実現するための取り組みを定めています。2018年の改正で精神障害者の雇用義務化、差別の禁止と合理的配慮の提供義務などが新たに定められました。
短期離職を繰り返す人を指す言葉としてジョブホッパー(job hopper)というのがあります。採用しても定着が難しいのではと思われることが多く、その後の就職がどんどん厳しくなることもあります。私は、まさにそのジョブホッパーに当てはまりました。
一般雇用で転職を繰り返していましたが、転職活動する中で発達障害という事実に触れずに離職に至った経緯や背景を説明する難しさがあったため、2018年の法改正をきっかけに障害者雇用を選択することにしました。
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障害者雇用で働く一番のメリットは、障害特性への配慮を受けられることだと感じています。
私の場合、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)の両方の障害特性があります。
職を転々とする中で、少しずつ自分が苦手とする業務や職種が明らかになってきました。
例えば、苦手な業務の一つに電話応対があります。周囲が騒がしい状況で声が聞き取りづらかったり、応対しながらメモを取ることが苦手でした。また、臨機応変な対応が必要になる接客や、そばを茹でている間に天ぷらを作るような同時並行作業が多い飲食店のキッチンなど、そもそも不向きな職種があることも徐々に分かってきました。そのため、現在の職場では電話応対やマルチタスクが必要となる業務が少なくなるように業務設計をお願いしています。
私は現在、採用アシスタントや人事企画領域のデータ集計や可視化、業務効率化などを担当しています。
採用アシスタントは、複数の求人を平行して運用したり、他社の内定を持った候補者との綿密なコミュニケーションを重ねたりします。採用の仕事自体はマルチタスクの塊ではあるのですが、用意されたテンプレートがあるので、一見苦手そうな業務に見えても「面談の日程を定める」「候補者に連絡する」……など決まったフローがあるので対応できています。
また最近では、オフィス出社とリモート勤務のハイブリッドな働き方が少しずつ浸透していて、連絡を取りたい相手が目の前にいるとは限らない状況が増えてきました。そこで日頃のコミュニケーションを口頭ではなく、チャットツールで行うことが一般的になってきました。
職種にもよると思いますが、電話応対ができなくても以前ほど困らなくなっています。
まず、雇用形態の問題です。障害者雇用は非正規雇用であることが多く、賃金が低いことも少なくありません。
昇進やキャリアアップの機会が限られていると感じることがあります。正直、昨今の物価上昇を痛手に感じています。
次に、障害者雇用であっても定着できるかどうかは上司次第なところがあるなと感じています。私自身、仕事の進め方のこだわりが強いので、一緒に働く上司も同じようにこだわりが強いとお互いやりにくい。例えるならシャーロックホームズとワトソンのような感じで、仕事の進め方が自分と対照的な上司のほうがうまくいくのではと感じています。
また、身体的には定型発達の人と同じに見えるため、配慮事項などが時間の経過とともに忘れられていくことも経験しました。その際に、“ここまではできるけれども、これ以上は難しい“ と周りに伝えるスキルが大切だと思っています。
就職してから1年ぐらい経過した際に、電話応対が必要な業務を割り振られたことがありました。配慮事項としてあらかじめ伝えていた業務が割り振られたことに対して憤りを感じました。私はこだわりの強さからか、自分の要求を伝える際に怒りが先行してしまう傾向があります。しかし、感情任せの要求だと伝えることが難しくなってしまうため、就労定着支援(※)という福祉サービスを利用しました。 ※就労定着支援とは、障害のある人の就労や、就労に伴って生じている生活面での課題を解決し、長く働き続けられるようにサポートする福祉サービスです。定期的に面談を行い、必要に応じて勤務先に直接伝えにくい要望や悩みを代わりに伝えたり、課題解決のためのアドバイスをしたり、勤務先に直接伝えにくい要望や悩みを代わりに伝えたり、医療機関・福祉機関との連携などを行います。
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私には上述の通りASDがあり、特性からかコミュニケーションが苦手で、所属する会社や組織によっては馴染めないな……と感じる場面が時折あります。それでも障害者雇用で働いてみて「社会で必要とされないのではないか」という疎外感を抱くことが少なくなってきています。
障害者雇用促進法前に、発達障害であることを隠しながら働いていた時と比べると、私自身の前向きな心境の変化であると思います。
また仕事が続くようになり、親への後ろめたさも減りました。以前は、大学まで出してもらったのにと自分を卑下することもありました。自分を卑下するという行為は、本当は社会で必要とされたいという願いの裏返しでもあるような気がしています。
実際に働きながら小さな課題解決や成功体験を経て、好循環が生まれているような気がします。
決して給与が高いとは言えないですし、雇用形態が非正規雇用であるという不安を抱えていたり、すべてが上手くいっているわけではありません。しかし、仕事がいつまでも決まらない焦燥感や貯金が底を尽きる心配がなくなり、精神的に安定してきたため、衝動的な行動も少なくなってきました。
周囲の理解を得ながら、長く働き続けることができてよかったと思っています。
ツーちゃんさん、障害者雇用についての体験談を教えてくださってありがとうございます。
実際、発達の偏りのある方の中には、いわゆる「ジョブホッパー」が少なくありません。周囲から「飽きっぽい」とか「やる気がない」と誤解されてしまうのですが、これには事情があります。
発達に偏りがある方の場合、電話応対や並行作業、報連相(報告・連絡・相談)などが苦手なことも多く、お仕事をする中でつまずいてしまうこともあるのです。「どうしても苦手なことがある」ということを周囲が理解してくれたらいいのですが、一般の企業ではなかなか難しい部分もあります。
障害者雇用での就業であれば、少なくとも人事の方々は発達障害などに理解があることが多いため、与えられる業務内容や人事配置など、一般雇用で勤めるよりも負担になりにくいと考えられます。
もちろん、障害者雇用であっても、実際の現場では周囲の1人ひとりが障害について充分理解しているとはいえないこともあります。そういった場合にすり合わせが必要となってくるのは、どこの職場でも避けて通れない道かもしれません。
ただ、一般雇用では、「得意・不得意の説明をする」という最初のとっかかりがなくて苦労する方が多いようです。上司や人事の方に交渉する機会も持てずに出社できなくなってしまうというパターンも少なくないのではないでしょうか。
ツーちゃんさんのように、障害者雇用や就労定着支援など、使える制度や支援などを上手に使いながら、困難を一つひとつ解消していけるといいですね。
これからも、周囲の人に相談して環境調整をしながら、ツーちゃんさんが活き活きと働けるよう願っています。
執筆 : ツーちゃん
ASD & ADHD持ちのオタク。1990年生まれ。
こだわり強め、好き嫌いは顔に出がち。
26歳で発達障害と診断、今は障害者雇用で働いています。
ADHDらしく多趣味で、アニメ、音楽、イラスト制作が好き!