精神疾患の治療を受けている人が利用できる経済的な支援とは?
うつ病などの精神疾患は、長期的な治療が必要となる場合が多くあります。特に、精神疾患の症状によって働けない状態が続くと、医療費や生活費などお金の面で心配になることもあるでしょう。そのようなときも含めて、活用できる経済的な支援を紹介します。
主に医療費と生活費に分けて、出ていくお金には何があるのかを整理します。生活環境などによって異なりますが、治療には主に以下のような出費があります。
通院して治療を受ける場合は、診察費、薬代、交通費がかかります。精神科デイケアや外来作業療法、訪問看護などを利用する場合は、その利用料がかかる場合もあります。入院して治療を受ける場合は、入院費だけでなく食費や日用品費がかかり、場合によっては個室料金が発生することもあります。
家賃や水道光熱費、食費、日用品、通信費、交通費、娯楽費、交際費などがかかります。各種税金や社会保険料なども支払う必要があります。生活費はそれぞれの生活環境によって大きく異なります。
精神疾患の診断がある場合、上記のような経済的負担を軽減する支援制度があります。主に、医療費の軽減など支出を抑える制度と、手当が支給される制度があります。以下が主な制度をまとめた一覧表です。
制度の多くは、お住まいの市町村役所にある障害福祉課などが申請窓口になっています。分からないことは自治体のWebサイトで確認したり、窓口へ電話して聞いてみたりすると安心です。
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精神疾患の治療を受けている人が利用できる医療費に関する制度
精神医療を継続して受ける必要がある人が利用できる、医療などにかかる負担を軽減する支援制度について紹介します。支払う医療費を抑えられる制度、支払い上限を超えた分の金額が戻ってくる制度などがあります。
自立支援医療とは、心身の障害に対する医療費の自己負担を軽減する制度です。自立支援医療には3種類(精神通院医療・更生医療・育成医療)あります。
うつ病や統合失調症などの精神疾患の診断があり、通院による継続的な治療が必要な人が申請・利用できます。以下のような、入院以外の医療費を原則3割から1割負担に軽減する制度です。
通院
通院にともなう投薬
精神科デイケア
訪問看護 など
また、世帯所得に応じて1か月に支払う医療費の上限が定められています。世帯所得の確認をするために、収入証明書や課税証明書(非課税証明書)の提出を求められる場合があります。
所得による1か月の支払い上限は、以下のように区分されます。
生活保護
対象:生活保護を受給している世帯
月額負担上限:0円
低所得1
対象:市町村民税が非課税、年収80万円以下の人
月額負担上限:2,500円
低所得2
対象:市町村民税が非課税、年収80万円以上の人
月額負担上限:5,000円
中間所得1
対象:市町村民税が3万3,000円未満、年収約290〜400万円未満の人
月額負担上限:総医療費の1割、または高額療養費※(医療保険)の自己負担上限額
中間所得2
対象:市町村民税が3万3,000円〜23万5,000円未満、年収約400〜833万円未満の人
月額負担上限:総医療費の1割、または高額療養費※(医療保険)の自己負担上限額
一定所得以上
対象:市町村民税が23万5,000円以上、年収約833万円以上の人
月額負担上限:対象外
また、統合失調症やうつ病などで高額な治療を長期間行う必要のある場合、「重度かつ継続」という区分が適用されます。上記とは別に、自己負担額の上限が設定されて負担がさらに軽減されます。
申請は、主に自治体の障害福祉課などで行います。申請する際には、医師の診断を受け、診断書や申請書の記入を依頼する必要があります。
申請が通ると受給者証が発行されます。受給者証が発行されるまで、自治体にもよりますが2~3か月程度かかることが多いようです。受給者証が発行されるまでの医療費の支払いは、申請書の控えの提出で1割負担となる場合や、発行後に余分に支払った医療費の払い戻し申請ができる場合などがあります。医療機関や自治体によって払い戻しができるかどうかや、手続き方法は異なりますので、確認しておくとよいでしょう。
そのほか、必要書類の詳細や注意点、有効期限や更新方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
高額療養費制度は、1か月の医療費が高額になった場合に申請することで一部の支払った金額が後から払い戻される制度です。入院による医療費(薬代も含む)も対象となります。払い戻される金額は、「自己負担限度額」を超えた分が対象となります。月をまたいで入院した場合などは、月ごとにそれぞれ自己負担額を計算します。
自己負担限度額は、70歳以上と69歳以下で異なり、さらに69歳以下の人のなかでも所得に応じて以下のように区分されています。また、過去12か月以内に3回以上自己負担額限度額に達した場合、4回目からはさらに軽減された自己負担限度額が適用されます。
年収約1,160万円以上
自己負担限度額:252,600円+(かかった医療費の総額(10割)ー842,000円)×1%
4回目以降:140,100円
年収約770~1,160万円
自己負担限度額:167,400円+(かかった医療費の総額ー558,000円)×1%
4回目以降:93,000円
年収約370~770万円
自己負担限度額:80,100円+(かかった医療費の総額ー267,000円)×1%
4回目以降:44,400円
年収約370万円以下
自己負担限度額:57,600円
4回目以降:44,400円
住民税非課税者
自己負担限度額:35,400円
4回目以降:24,600円
申請は、自分が加入している健康保険協会に対して行います。審査があるため、払い戻しは診療月から3か月以上かかることもあるので注意してください。申請期限は2年間です。期限内であれば、過去の医療費までさかのぼって申請することができます。
また、医療費の金額が大きく支払いに充てる資金が必要なとき、無利子で貸付する制度が利用できる場合もあるので、自分の健康保険協会に確認しましょう。
医療費が高額になることが事前に分かっている場合には、「限度額適用認定証」を提示する方法が便利です。「限度額適用認定証」を持参し、医療機関などの支払い窓口に提示すると、1か月の支払い金額がはじめから自己負担限度額までになります。
マイナ保険証(健康保険証利用登録を行ったマイナンバーカード)を医療機関などの支払い窓口へ提示すると、その代わりになります(オンライン資格確認を導入している場合に限る)。もしくは限度額適用認定証を自分の健康保険協会へ申請し、取得します。取得方法や申請窓口は、加入している健康保険協会によって以下のように異なるので、よく確認してから申請しましょう。
国民健康保険:申請書などの必要書類を用意し、自治体の受付窓口で申請(郵送可の自治体もあり)
協会けんぽなど:申請書を印刷・記入し健康保険協会に郵送などで提出
払い戻しの優先順位ですが、まずはこの「高額療養費制度」が適用されます。そして残った自己負担額の部分が、前述した「自立支援医療制度」や、このあと紹介する「障害者医療費助成制度」の対象となります。
具体的な金額の計算方法や申請手続きについては、以下の記事で詳しく解説しています。
障害者医療費助成制度は、心身に一定以上の障害がある人を対象に、医療費の助成をする制度です。自治体によって制度の呼び方が異なり、「重度障害者医療費助成」「心身障害者医療費助成制度(マル障)」などと呼ばれています。医療機関で、健康保険証と本制度の証明書を提示することで、助成を受けることができます。
障害の種別によって対象者の要件が異なっており、精神疾患の場合は精神障害者保健福祉手帳1級を持っている人が対象となります。
助成対象の医療費や、助成要件、金額なども自治体により異なります。例えば横浜市では、通院にかかる医療費のみが対象となっています。
申請窓口も自治体により異なります。自治体のWebサイトを確認して書類の準備や申請を進めましょう。
精神疾患の治療を受けている人が利用できる生活費に関する制度
精神疾患の治療を受けている人が利用できる、生活費にかかる負担を軽減できる支援制度を紹介します。税金が控除される制度、手当が支払われる制度、困りごとを解決するための支援に繋ぐ制度などがあります。
精神障害者保健福祉手帳は、一定の障害の状態にあることを示す公的な証明書です。申請には要件があり、それを満たすことで手帳が取得できます。精神障害者保健福祉手帳には、1級から3級までの等級があります。等級は、精神疾患の状態と合わせて、生活にどのくらいの制限があるかを含めて総合的に判定されます。
手帳を取得することで、税金の控除や美術館や博物館など施設利用料金の割引などを受けられる場合があるため、生活にかかる費用の負担を軽減できます。また、就労支援などの利用に必要な、障害福祉サービスの利用もしやすくなります。さらに、自治体ごとに独自の割引などもあります。(例:東京都では都営の地下鉄・バスが無料)
以下が具体的な支援項目です。等級によって、控除される金額や利用できる内容が異なります。
所得税や住民税の控除
相続税の控除
贈与税の控除
生活福祉資金の貸付
医療費の助成
上下水道料金の割引
一部の公共交通機関の運賃などの割引
美術館など施設利用料の割引
携帯電話料金の割引
公営住宅への優先入居 など
また、2025年4月までにJRと私鉄大手各社の運賃割引もスタートすることが決定しました。精神障害者保健福祉手帳を持っていると電車の利用もしやすくなるなど、利用の機会が増えてきています。
申請は、自治体の障害福祉課などで行います。申請してから発行までは2か月程度の時間がかかり、決められた形式の診断書などの準備も必要になります。
申請や必要書類などの詳細は、以下の記事や自治体Webサイトなどで確認してみてください。
障害年金は、病気や障害のある人が一定の条件を満たすと受給できる年金で、高齢の人だけでなく現役世代の人も受け取ることができます。障害基礎年金と障害厚生年金の2種類があり、障害者手帳を持っていなくても申請ができます。
障害基礎年金は1級~2級、障害厚生年金は1級~3級の区分があります。区分は、障害の程度によって決まり、申請した書類をもとに審査・決定されます。区分によって、受給できる金額が変わってきます。
障害年金の受給要件には以下の3つがあり、すべてを満たしている必要があります。
初診日が特定できること
「障害等級表」にある一定の障害の状態であること
定められた期間、保険料が納付されていること
障害年金の申請や相談は、年金事務所や年金相談センター、自治体の障害福祉課の窓口などで相談ができます。予約相談も利用できますので、ぜひ活用しましょう。申請には医師の診断書などが必要です。申請から審査結果の通知までは、3か月ほどかかるので注意しましょう。
特別障害者手当は、20歳以上で、精神や身体に著しく重度の障害があり、生活で常に介護が必要な障害のある人が受給できる手当金です。支給額は一律で、月額28,840円です(2024年12月時点)。
申請は、自治体の障害福祉課などで行います。来所が難しい場合は、郵送で申請が可能な自治体もあるので確認しましょう。
生活困窮者自立支援制度は、経済的に困窮している人に対し、生活や住居、家計、就労など幅広く支援する制度です。自立相談支援窓口は全国にあり、家計や本人の状況などをもとに、現状の課題の把握や、個別の支援計画の作成など、きめ細やかな支援を受けられます。
さらに、必要に応じて資金貸付のあっせんや、一時的な宿泊場所や衣食の提供、ほかの支援機関の紹介などを受けることもできます。
まずは、お住まいの地域の自立相談支援窓口に相談してみましょう。以下のWebサイトから、近くの窓口を検索できます。
生活保護は、ここまで紹介した経済的支援などを相談・受給し、それでも生活に困窮している場合に受給を検討します。原則として世帯単位で生活費や家賃、医療費などの支援を受けることができ、最低限の生活を保障して自立を目指した支援を受けることができます。
相談や申請は、自治体の福祉事務所の窓口で行います。受給要件や申請方法、支給金額などは、以下の記事で解説していますので参考にしましょう。
紹介した制度や手当以外にも、状況などによって以下が活用できる場合があります。申請要件を確認し、利用できるものがあれば申請しましょう。
障害者控除:税法上の制度。障害のある人やその家族が納める税金を少なくする 傷病手当金:健康保険の制度。業務外の病気やケガの療養のため休職している間に支給される手当 児童扶養手当:国の制度。子どもを扶養している父または母で、定められた重度の精神障害がある場合に支給される手当
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精神医療を受けている人が活用できる支援制度をいくつか紹介しました。精神疾患は長期的な治療が必要になることが多いため、これらの制度を活用しまずは経済的な不安を減らしましょう。不明な点はそれぞれの窓口に問い合わせ、利用できるものを見つけていきましょう。