パニック障害(パニック症)(※)は不安症の一部で、「パニック発作」を何度も繰り返す精神疾患です。 「パニック発作」とは、理由なく突然起こる強い不安感や恐怖感と共に、激しい動悸や息切れ、呼吸困難や発汗などの身体的症状が表れます。パニック発作が再び起こることを常に心配し、発作のきっかけになりそうな状況を回避しようと行動する場合もあります。
(※)パニック障害は現在、「パニック症」という診断名となっていますが、最新版『DSM-5-TR』以前の診断名である「パニック障害」といわれることが多くあるため、ここでは「パニック障害(パニック症)」と表記します。
パニック発作は、突然激しい恐怖や不快感があり、数分以内にさまざまな症状が生じます。症状としては、動悸・心拍数増加、発汗、震え、息切れ感、窒息感、胸部の不快感、吐き気、めまいや寒気などの身体症状のほか、どうにかなってしまうのではないかという恐怖、死への恐怖などを感じる場合もあります。
なお、パニック障害(パニック症)の診断にあたっては、このような症状が、薬品の影響でないこと、何らかのほかの医学的疾患、精神疾患などの基準を満たさないことの確認が必要です。
パニック障害(パニック症)には、「予期不安」が現れることがあります。予期不安とは、パニック発作を繰り返すうちに、「また発作が起きるのではないか」という不安感と恐怖感にとらわれる症状です。予期不安が強くなると、発作の経験と、それが起きた状況や場所を結びつけて恐れるようになり、その状況を避ける「回避行動」をとるケースが多くみられます。
また、パニック発作は突然起こります。そのため、職場や会議などの逃げられない状況、通勤のための公共交通機関など助けを求めにくい状況を恐れて、それらを避けることがあります。やがて実際に自分が恐れる場所に近づいただけで動悸がしたり、吐き気や呼吸困難などに見舞われたりするようになる場合もあります。これを広場恐怖といいます。
パニック障害(パニック症)の治療法には、抗うつ剤や抗不安薬などを使用する薬物療法と、認知行動療法や曝露療法などの精神療法があります。一人ひとり発作の頻度や状態などが異なるため、治療法は主治医とよく相談しながら決めていきます。
パニック障害(パニック症)の症状や原因、治療法などは、以下の記事を参考にしましょう。
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仕事に関する場面でパニック障害(パニック症)を発症したらどう対処する?
パニック発作は通勤中や仕事中に起きる可能性もあるため、どう対処していけばよいか悩んでいる人も少なくありません。この章では、仕事に関する場面でパニック障害(パニック症)を発症したときの対処法について解説します。
仕事に関する場面で、パニック発作のきっかけとなりうる状況
パニック障害(パニック症)のある人の体験談から、仕事にまつわる以下のような状況がきっかけで、パニック発作が起こる場合があるようです。
通勤時の電車やエレベーターの中など、すぐには逃げられない空間にいるとき
会議中に発表しているときや、発言を求められたとき
超過勤務などで疲労がたまっているとき
1人での当直勤務時や、高速道路をひとりで運転しているときなど、ほかの人とすぐには交替できない状況のとき など
パニック障害(パニック症)の人の中には、不安や恐怖が高まってきたら、心を落ち着かせるために以下のような工夫をしている人もいます。
電車やエレベーター内は出入口の近くにいる
会食などで飲食店を利用するときは、出口に近い席を選ぶ
スマートフォンの操作に集中して意識をほかに向ける
音楽を聴く、頭の中で歌を歌う
ペットボトルを持ち歩いて水を飲む、飴をなめる
深呼吸をして落ち着かせる
処方されている薬を服用する など
パニック発作が起こったときは、以下のような対処法が有効であるといわれています。
抗不安薬など処方されている薬を頓用する
電車やエレベーター内にいるときは、その場所から離れる
「パニック発作で死ぬことはない」「薬を飲んだから大丈夫」など自分に言い聞かせる
座って、楽な姿勢をとる
ゆっくり深呼吸をする
発作がおさまるまで抵抗せず、じっと待つ など
パニック発作は10分以内にピークに達し、その後数分で症状がなくなることが多いため、安全な姿勢をとって発作がおさまるまで待つことが大切です。パニック発作が起きると自分では何もできないことが多いため、周囲の人にこれらの対処法を伝えておくと、なおよいでしょう。
パニック障害(パニック症)の症状がある場合の仕事の選び方とは?
これまで紹介したパニック障害(パニック症)の症状や発作のきっかけになりそうな状況、対処法などを踏まえ、仕事を選ぶポイントを紹介します。
症状による困りごとや、発作が起きやすい状況は一人ひとり異なりますが、そのような場面をなるべく少なくできる働き方を選ぶことがポイントのひとつです。パニック障害(パニック症)の人、全員にあてはまるわけではないので、下記を参考に主治医ともよく相談しながら検討しましょう。
一人ひとり、安心して働ける環境は異なります。まずは、何が自分にとって安心できる環境なのか考えてみましょう。
例えば、通勤時の電車が発作のきっかけになりそうな場合は、週の何日かを在宅勤務にするよう相談するという選択肢もあります。在宅勤務でなくても、出社や退社の時間を調整し、通勤ラッシュを避けられる時間帯にすることも考えられるでしょう。そうすることで、朝夕の通勤に関わるストレスが少なくなる可能性があります。
また、業務の責任の重さや、業務量が多く終わらないかもしれないという不安が発作のきっかけになるようなケースでは、管理職やリーダーになる可能性が低い業務内容がよいかもしれません。もしくは、自分のほかにも同じ業務の人を立ててもらえないか、職場に相談するといった方法もありそうです。ほかの人に頼れることで、相談しながら安心して業務が遂行できるかもしれません。
ほかにも、毎月の業務量・業務内容がある程度スケジュールされているほうが安心して働ける場合もあるでしょう。その場合は、日々の予定が異なるシフト勤務や、残業が多い仕事ではないほうがよい可能性もあります。
なお、自分が安心して働ける職場であっても、ストレスや疲労がたまっていると感じたときには注意が必要です。過労・睡眠不足・風邪などによる体調不良は、症状を引き起こすきっかけになる可能性があります。少し調子が悪いなと感じたら、自分に合った対処法を試す、こまめに休息をとるなどを心がけましょう。
前述の通り、仕事をするにあたって、症状による困りごとが少ない職場環境や業務内容を知ることは大切です。どのような環境や状況のときにパニック発作が起こりやすいか、どのようなときにストレスを感じやすいかを把握しましょう。
ストレスの把握が難しい場合は、職場で受けたストレスチェックを振り返ったり、今までの症状や治療経過を主治医に尋ねてみたりしてもよいかもしれません。
なお、以下の厚生労働省Webサイトでは、ストレスに関するセルフチェックができ、仕事に関する興味関心などを測ることもできます。仕事を探す際の参考として活用してみましょう。ほかにも、後ほど紹介する就労支援機関を利用することで、専門家からのより具体的なサポートが利用できます。
働き方には、一般就労(一般雇用、障害者雇用)や福祉的就労(就労継続支援A型・就労継続支援B型)など、いくつかの種類があります。
一般就労には、一般雇用と障害者雇用があります。ここでいう「一般雇用」とは、障害や疾患のあるなしにかかわらず応募できる、世の中の一般的な求人のことです。一般雇用の場合、パニック障害(パニック症)の診断があることを開示して周囲の理解や配慮を得ようとする人(オープン就労)もいれば、診断や症状は伏せて働いている人(クローズ就労)もいます。
一般雇用のほかに、「障害者雇用」で働くという選択肢もあります。障害者雇用とは、障害のある人が一人ひとりの特性に合わせた働き方ができるよう、企業などが障害のある人を雇用することです。障害者雇用で働く場合には、原則として障害者手帳(パニック障害(パニック症)は、精神障害者保健福祉手帳が該当)が必要になります。 民間企業などでの一般就労が難しい場合、「福祉的就労」で働くこともできます。
福祉的就労には、雇用関係を結んで働く就労継続支援A型と、雇用関係を結ばずに生産活動を通して工賃を受け取る就労継続支援B型があります。利用には、どちらも「障害福祉サービス受給者証」が必要です。障害者手帳がなくても、定められた利用条件を満たせば利用することができます。 それぞれの利用条件や詳しい内容は、以下の記事を参考にしましょう。
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パニック障害(パニック症)の人が仕事を続けるためのポイント
パニック障害(パニック症)の症状とうまく付き合いながら、長く働き続けるためにできることを紹介します。
パニック障害(パニック症)の症状を改善するには、正しい治療を受けてそれを継続することが一番の近道です。ただし、仕事をしながら通院や服薬を行うには、周囲の理解や職場での調整が必要な場合があります。
例えば、勤務時間や勤務日の調整、休暇の取得など、治療を継続するために困っていることがあれば、職場の上司や人事、産業医などの産業保健スタッフに相談しましょう。症状を安定させて長く働くために、自己判断で服薬などの治療を中断せず、職場への理解を得ながら治療を続けていくことが大切です。
ウォーキングやストレッチ、散歩などの適度な有酸素運動は、精神を安定させる神経伝達物質の分泌を増やします。しっとり汗をかくくらいの軽い運動は、ストレスの解消にもつながります。
規則正しい睡眠によって体内時計を正常にし、生活リズムを整えるように心がけましょう。ただし、パニック障害(パニック症)の人はその症状によって規則正しい生活リズムにすることが難しい場合もあります。
まずは自分にとって必要な睡眠時間を確保し、自律神経を整えます。十分な睡眠時間を取れるとよいですが、決まった時間に寝て起きることを習慣にすることから始めてもよいかもしれません。
1日3食を適切な時間に食べるようにしましょう。朝食は特に、1日のスタートとして体内時計を整える役割があります。
カフェインを過剰に摂取すると、脳が刺激され神経を興奮させます。また、アルコールの過剰摂取も薬の効果を低下させ、パニック発作を引き起こす一因になる可能性があります。カフェインを含む飲料やお酒などの過剰摂取は控えましょう。
また、喫煙はパニック障害(パニック症)やパニック発作の危険要因であることがわかっています。できれば喫煙しないよう心がけるとよいでしょう。
仕事をしながら通院や服薬を行う必要があることや、パニック発作が起こったときにどのようにしたらよいかなど、職場に対して相談をすることも検討しましょう。働くうえでの困りごとや不安を軽減するためには、具体的にどのような配慮が必要かを職場と話し合い、就労時間や業務内容などの働く環境の調整を行えるとよいでしょう。
働く環境の調整を通して、社会や職場にある障害を取り除き、より働きやすく一人ひとりが能力を発揮できるようサポートをすることを「合理的配慮」といいます。合理的配慮は、障害のある人が障害のない人と均等な待遇を確保できるよう、状況に応じた困りごとを改善する目的で、個別の対応や支援を行います。
配慮の内容について、職場との話し合いを通し合理的配慮を得ることで、困りごとが少なくなり働きやすくなる可能性があります。相談先は、職場の上司、人事や産業医などの産業保健スタッフ、主治医、後ほど紹介する就労支援機関の支援者などです。
具体的な配慮の内容は会社との話し合いによって決まります。本人の困りごとの程度や職場環境などによりますが、以下が配慮の具体的な例です。
例1:仕事のストレスがたまり突然の動悸などの症状が出たため、受診し診断を受ける。治療を続け管理職に昇進するも、会議での発作を繰り返し出社困難になったため、業務調整を行った。同じ部署のまま、複雑な調整業務や人事に関わる業務を減らして、さらにフレックス制を導入。残業はせず、大きな発作が起こりそうなときは保健師に相談できる体制を整えた。
例2:障害者就業・生活支援センターからのアドバイスを得ながら、所属部署の現場リーダーが作業指導を担当。専用の作業手順書・スケジュール表を作成し、相談をこまめに受けながら業務を開始。出勤は生活リズムを考慮して朝7時からの早番とし、1日4時間勤務からスタート。現在は本人や家族と相談して、勤務時間を延長している。
例3:養護学校(特別支援学校)在学時に職場実習を複数回実施し、特性や適性を確認したうえで1日6時間勤務で就労。日々の作業状況の把握や業務指導、相談は生活相談員を担当者として定めた。新しい業務を担当するときは試行期間を設け、昼の1時間休憩を自宅で取ることも認めている。
パニック障害(パニック症)の診断がある人が利用できる仕事に関する支援
パニック発作が起こることへの不安から、「仕事をすることが難しい」と感じている人がいるかもしれません。職場の上司や同僚、家族や主治医へ相談する以外にも、疾患や障害のある人へ就職支援を行っている就労支援機関があります。以下で紹介する機関へ相談することで、専門的なアドバイスをもらえる場合がありますので、利用を検討しましょう。
障害のある人へ向けて、専門的な職業リハビリテーションサービスを行う機関です。地域や企業とも連携し、障害の特性に合った就職先の提案が受けられます。全国の各都道府県に最低1か所ずつ設置されています。
一般就労を目指す障害や疾患のある人が、働くための知識や能力を身につけることができる就労支援サービスです。事業所によってそれぞれサービス内容は異なりますが、主なものは職業訓練、就職活動のサポート、職場定着支援の3つです。また、就職前から就職後までを一貫してサポートしてくれるのが特徴です。
サービス利用のためには、「障害福祉サービス受給者証」を申請し取得する必要があります。詳しいサービスの内容や利用までの流れなどは、以下の記事を確認しましょう。
障害のある人に、仕事と合わせて生活に関する支援まで幅広く提供している機関です。就労に関する相談だけではなく、パニック障害(パニック症)の症状によって、生活の中で生じるさまざまな困りごとへの相談も受け付けています。相談をもとに、関係機関と連携した支援を行っています。
全国に500か所以上と多く設置されており、働きたいと思う人が誰でも利用することができる職業紹介所です。障害のある人向けの相談窓口も設置されており、専門の職員が自己分析のサポートや求人紹介など、就職に関する幅広い支援を行っています。
障害者手帳がなくても相談は可能で、特性や障害に合った求人紹介を提供しています。
働いていく中で、パニック障害(パニック症)の症状によって仕事を続けることが難しかったり、働き方を変えなくてはならなくなったりすることがあるかもしれません。そのようなときに、生活を支えるお金に関する支援制度を紹介します。
支援制度ごとに、対象となるかどうかが異なります。準備する書類や申請先も違いますので、以下の記事を参考にしましょう。また、主治医やお住まいの自治体窓口で、どの支援制度が利用できそうか聞いてみてもよいかもしれません。
以下の記事では、精神疾患の治療にかかるお金のことについて解説しています。あわせて確認しましょう。
パニック障害(パニック症)の症状によって思うように仕事ができなかったり、仕事の仕方を変える必要があったりすることがあるかもしれません。大切なことは、病気の正しい知識を持ち、不安が高まったときや発作が起こったときの対処法を知っておくことです。仕事に関して相談したい場合は、主治医をはじめ、紹介した就労支援機関なども活用してみましょう。