障害者とお金の切実な悩み。金銭管理、支援制度は実際どうしているの?聴覚障害とADHDのコラムライターくらげさんに聞く

更新 2025/01/28 公開 2025/01/31
記事トップイメージ画像
仕事ナビ連載ライターのくらげさんは、重度聴覚障害、ADHD(注意欠如多動症)、双極性障害(双極症)があります。今回は、気になっている方も多い「お金の悩み」についてお話を伺いました。
無料会員になりませんか?
働くことに障害のある方へ役立つ情報が届きます!

目次

  1. 社会人になり、金銭面で困ったことは?
  2. 福祉サービスは利用していますか?
  3. 切っても切れない障害者とお金の問題

社会人になり、金銭面で困ったことは?


仕事ナビ編集部(以下、ーー)LITALICO仕事ナビで行った調査では、障害のある方のお悩みとして金銭面を挙げる方が多くいらっしゃいました。くらげさんは、社会人になり金銭面で困ったことはありますか?

くらげ:お恥ずかしながらお金の管理は非常に苦手です。一応「このくらい使っている 」というのは分かるのですが、ADHDからくる衝動買いや過食的なものがあり、その辺で非常に浪費しています。支出計画を作ってはいるのですが想定外の買い物や予算内に収めることが難しく、常にお金がないという状態です。

また、通院代や薬代など医療費や補聴器の購入・維持にかかるお金もかなり洒落にならない額になっています。これらは生活に関わる出費の中でも無視できません。障害があるだけでお金がかかるとは理不尽だと日々思っていますが、仕方ない出費と割り切るしかないですね。また、ADHDからくる紛失物も多いですし、トラブルのリカバリーのために余計な支出があることも少なくありません。

あとは「選べる仕事がそれほど多くはない 」ということと「その仕事もさほど給料は多くない」ということもかなり厳しかったものがあります。世の中にはさまざまな種類の貧困がありますが、障害があることは貧困の原因としてかなり多くの割合を占めるのではないかと思っています。

ーー特に困っているのはどんなところでしょうか。

稼ぎに対して支出が多いということが本当に悩みです。 このあたりは自分の自業自得なところもあるんですが、ADHDによる衝動性からくるものも多くて自分の中でもコントロールするのが大変ですし、買ってもストレス、買わなくてもストレス、ということでなにか「欲しい」と思い、こだわり始めるとあまり心穏やかではなくなります。そういう意味では気分が高揚している時期のほうが金銭面ではつらかったりしますね。

ーー出費で一番多いもの、減らすことが難しいものを教えてください。

食費がしんどいです。ADHDの特性が原因かどうかはちょっと分かりませんがお腹が減るとかなりメンタル的に厳しくなるものがあり過食の傾向が強いです。この辺を何とかコントロールできれば生活も少しは楽になるのではないかと思っています。


無料会員になりませんか?
障害者雇用の求人案内が届きます!

福祉サービスは利用していますか?


ーー金銭面に関して福祉制度や民間のサービスなどは利用されていますか?

くらげ:障害年金自立支援医療制度、障害者向けの保険に加入しています。自立支援医療制度は支援の存在そのものを知りませんでした。

ーー自立支援医療制度はどのようにして知ったのでしょうか?また、内容としてはどんなサポートを受けていますか?

聴覚障害の分野では障害年金などについてはろう学校に在籍していた頃から先輩に聞いて知っていましたし、「困ったらこのような福祉サービスを使うといいよ」ということを周りからいろいろと教えてもらう機会がありました。

しかし、発達障害や精神障害の分野は最初は詳しくなくて、自立支援医療制度については妻から「こういうサービスがあるから使ってみたら?」と言われて病院に相談したのが最初です。

自立支援医療制度は精神科などでの通院に限っては自己負担が一割になり、収入次第では月の自己負担に上限が発生しますが、精神科などの通院でお金が苦しいという方は一度検討してみてはいかがでしょうか。

ーーくらげさんはこれまで企業に勤められたご経験があり、現在はフリーランスでお仕事されているそうですが、それぞれ金銭面やそのほかの部分でメリット・デメリットと感じる部分があれば教えてください。

くらげ:仕事ができるなら企業で勤めたほうが安定して収入を得られるという面でとてもよいと思います。ただ、私は8時間座って仕事をすること自体が難しく、睡眠リズムも安定していないのでフリーランス的な働きをしたほうが自分としては体調的にはよいと思っています。


切っても切れない障害者とお金の問題


くらげ:障害者とお金は切っても切れない問題ですが、あまり話題になることがないというか話題にすることを意図的に避けられている面があるかと思います。また、私自身は重度聴覚障害であることで福祉に助けられている面がかなりありますが、ADHDだけなら受けられる支援もかなり少なかったのではないかな……と思います。そういう面では恵まれているほうだなと思うのですが、自分から「恵まれていました」というのもなかなか難しいものがあります。

ただ、この問題に関する問題は個人ではどうにもならないことが多く、社会的・政治的に解決するしかないことも多いとは思いますが、そのための社会運動をするための余裕すらないという人が多いということも非常に難しい点だと思っています。

私自身、障害があることで世の中の矛盾を一身に背負っているような気持ちになることがあります。こういった気持ちに陥る人はきっと私だけではないと思います。本当に世の中をなんとかしないと不幸になる人が増える一方ではないかと感じています。

ーー今後、くらげさんご自身が金銭面に関して対応していきたいことはありますか?

お金がないということに対して対応できることは「収入を増やす」ということと「無駄を削減して生活費を減らす」というアプローチがあるかと思います。しかし、障害があるとなかなか「収入を増やす」という方法が取りにくい現実があり、そうなると無駄を削減する方向に進みたいと考えています。

ただ、ADHDからくる無駄遣いはストラテラ(ADHDの症状を抑える薬)を飲んでから突発的に起こる「〇〇が欲しい」という強い衝動はずいぶんと抑えられるようになったので、自分の特性に応じて無駄遣いを減らすというアプローチもあるのだろうなと思っています。

ーーくらげさんの体験から、障害がある人が生活する中での金銭面の課題と、それにどう向き合っていくかという現実が浮き彫りになりました。障害特有の支出や、収入を増やすことの難しさ、さらには福祉制度の活用についての情報不足といった問題は、多くの方が直面している悩みではないでしょうか。

こうした金銭面の課題における具体的な解決策や支援制度の活用法について、行政書士の渡部先生にコメントをいただきました。

監修:渡部先生

障害特性によってお金に関する課題はそれぞれ異なりますが、このコラムで紹介していただいたもの以外にも、重度障害であれば保険診療の自費負担が無料になる医療費助成制度や、公共交通機関の利用料やNHKの受信料に対する助成、所得税や相続税の障害者控除など、支える仕組みも複数あります。

大切なのは、いかに有益な情報を得て活用するかだと思います。くらげさんは奥様から自立支援医療のことを教えてもらったとのことですが、ご家族以外にも、支援者や福祉関係者からのアドバイスや、当事者の会などに参加することで、さまざまな情報を手に入れることができると思います。たくさんの接点を作ることが大切ですね。
監修者の写真
監修 : 渡部伸
「親なきあと」相談室主宰/行政書士・社会保険労務士
2級ファイナンシャルプランニング技能士
「世田谷区手をつなぐ親の会」会長
著書に、『障害のある子が「親なきあと」にお金で困らない本』 『障害のある子の「親なきあと」〜「親あるあいだ」の準備』 (主婦の友社)など。
執筆者の写真
執筆 : くらげ
聴覚障害とADHDの重複障害者。フリーランスのライターをメインにしつつ、障害者専門クラウドソーシングサービス「サニーバンク」のアドバイザーやメンタルヘルス系SNS「いつでもおかえり」の広報なども行っている。趣味はガジェットで遊ぶこと。著書に『ボクの彼女は発達障害』(学研プラス)がある。
会員登録バナー

あわせて読みたい