愛着障害とは、療育者との愛着が安定して形成されていないが為に、情緒や対人関係に問題が生じ、社会適応に支障をきたす精神障害です。
愛着障害に名称にも使用されている愛着は、「子供と特定の母性的人物との間に形成される強い情緒的なつながり、信頼関係」の事を指しています。
人間は他の動物と異なり、非常に未成熟な状態で生まれてくることが特徴です。
そのため、生後しばらくは自分一人で生きていく事が出来ない乳幼児は、主に自分の身の回りの世話をしてくれる母親と愛着を形成する事で、安心感を得ながら自らの興味・関心の幅を広げ、認知や情緒を発達させていくと考えられています。
そして、この療育者との間の関係性は、より一般的な世の中の人々との関係性における土台となるものであり、しっかりとした愛着を形成し、療育者への信頼感を十分に形成できていれば、他者に対しても基本的信頼感を持って接する事が出来るようになるのです。
しかし、何らかの原因により愛着形成が租害されると、その後の生活においても情緒的な混乱や対人関係に大きな問題を抱えてしまうのです。
愛着障害は大きく「反応性アタッチメント障害」と脱仰制型対人交流障害」2つの下位分類があるとされています。
これらはどちらも安定した愛着形成が行われなかった為に生じると考えれていますが、その症状の表れ方には大きな違いがあります。
反応性アタッチメント障害とは、対人関係において過度に警戒を示したり、よそよそしさが見られる、対人交流をしないなど、他者との親密な対人関係の形成に箸しい困難をきたす障害です。
これは、愛着対象を求めないという心的働きから見られる症状であり、基本的な信頼感が形成できていないからこそ警戒感が強く、深い対人関係を築くことが出来ないために社会対応に支障をきたしてしまうのです。
脱仰制対人交流障害は、人との距離を取ろうとする反応性アタッチメント障害とは逆に、人と過剰に距離の近いという行動を示します。
具体的には誰にでもなれなれしく接する、過度に人に甘えるなどの行動が見られる一方で、協調性がなく自分勝手な行動をとるなどの症状が特徴的です。
このような行動の背景には愛着が安定せず、愛着対象を求めすぎることがあると考えられています。そして、基本的な信頼感が損なわれている為、距離を近くしたとしても人を信用する事が出来ず、あえて自分勝手なふるまいをする事で他者が自分の事を受け入れてくれるのか試し行動によって確認する事が辞められないのです。
しかし、周囲の人間からはなぜその様な一貫しない行動をとるのか理解が出来ず、周囲との関係に問題が生じてしまうことが大きな問題となっています。
愛着障害の原因にはどのような事があるのでしょうか。
今回は環境的な要因と生理学的な要因という2つの視点から見ていきましょう。
を受けた子供は愛着障害のリスクが高くなることが指摘されています。
特には次のような種類が挙げられており、どれも愛着障害の発症に繋がりうるものであると危険視されています。
・性的虐待(子供に性的な行為をする、させるよう強要する)
・心理的虐待(暴言、意図的な無視、DVの目撃など)
・ネグレクト(食事を作らない、風呂に入らせないなど健康な生活を送れる環境を提供しない事)
このような不適切な療育を受ける事で愛着障害の発症リスクを高まるのはもちろんの事、出現する愛着障害に感情制御機能に問題を抱える頻度が高まり、成長につれ重馬な精神疾患に推移するリスクが高い事が指摘されています。
不適切な療育を受ける事は、愛着形成において重要なこころの安全基地の形成に支障をきたします。
この心の安全基地とは、安心感を持って戻る事の出来る居場所の事を指しており、これがあるからこそ子供は安心して外的環境に興味・関心を示す事が出来るのです。
しかし、虐待を受けているような家庭では、ダブルバインドと呼ばれる一貫性のない環境に曝される事となります。(例えば、時間や状況によって母親の態度が大きく異なるなど)これによって子供は何が正しいのかということに確信を持つことが出来ず、安心感を持った信頼関係を築くことが出来ないのです。
また、幼少時に日虐待経験を持つ精神疾患患者は、合併症の多さ、治療反応性(治療的介入りの効果の表れやすさ)も低いというリスクを抱えています。
そのため、より早期の段階において虐待を受ける事は愛着障害の発症及び重症化のリスク要因の最たるものであると言えるでしょう。
実は、愛着障害の子供と定型発達の子供では脳の機能に違いがある事が知られています。
脳の活動状況をモニタリングするfMRIという技術を利用し、ゲームの結果によりお小遣いの貰える課題を行いました。
その結果、定型発達児は報酬が多くても少なくても脳の活性化が見られたにも関わらず、愛着障害児は報酬があろうとなかろうと脳の活性化が見られなかったのです。
そのため、要求が満たされた時に活性化し、快の感覚をもたらす腹側線状態という神経系の賦活が乏しいと考えられています。
愛着障害の子供は周囲のへの不信感が強く、誉め言葉にも反応が乏しいという特徴がありますが、これは脳の快を感じさせる機能が低下してしまっている事に由来しているのです。
また、愛着障害児には左半球の一時視覚野の容積が2割程度減少していたという報告もあります。
この領域の容責現象は過度の不安や恐怖、心身症上、仰うつなどの関連が指摘されており、感情的に不安定な特徴を示す愛着障害の症状をこの脳部位に起因する可能性が高いと考えられています。
愛着障害を考えるうえで問題となるのが発達障害との鑑別です。
愛着障害と発達障害はどちらも人間関係というという観点において困難を抱えています。
多動や衝撃的という意味で愛着障害とADHDは非常に似ていると話題に上がる事があります。しかし、ADHDは生まれつき脳機能の異常があるため落ち着きのなさ、不注意や衝撃性のコントロール不全などの症状を呈するという点で生まれた後の養育者との関係性に問題を抱えた愛着障害とは大きく異なります。
例えば、移動・落ち着きのなさという特徴で考えてみましょう。
ADHDは脳の機能の異常にあるため、場面を選ばずいつも多動であるという症状を星します。これに対し、愛着障害の多動様行動か感情的な不安定差に起因しています。
そのため、ネガティブ感情が多いときやポジティブ感情で興奮している状態など、特定の状態によって多動的特徴を示します。
この他にも、片付けやルールを守れない症状では、ADHDはルールを守らなくては、片づけなくてはという気持ちがあるものの、注意が散漫になりやすいため、失敗してしまう事が起こります。
これに対して、愛着障害では「ルールを守った方がいい」、片づけた方が気分が良い」などの、感情、意欲が育っていない状態です。
そのため、うまくやろうと思っても失敗してしまうADHDとは表面上の症状は似ていても根本的に異なっていえると言えるのです。
例えば、ADHDでは不適切な行動をとった場合、行動療法的な観点から不適切な行動をしたことに反応を示さないというアブローチをとる事があります。
これは、本人の意図とは無関係に生じる不適切な行動に対し、怒る、利用を聞くなどの反応を示すと、他者が自分に関心を示してくれたとして行動の生起頻度を高める強化子として作用してしまう事を防ぐために行われます。
しかし、感情的のムラによって不適切な行動をする愛着障害にはこのようなアプローチは有効ではないと指摘されています。
愛着障害の子が行う不適切な試し行動の背景には「自分に注目してほしい、関心を向けてほしい」という思いがあります。
その計画的な無視は、本人の感情をかえって逆な出る事となり、注意を引くためにさらに不適切行動が増加する恐れがあるのです。
そのため、カウンセリングなどによってクライエントがカウンセラーと基本的な信頼関係である愛着を築く発達の場として機能するよう介入する事が望ましいでしょう。
初学者でも手に取りやすい入門書をまとめてみましたので、気になる本があればぜひてにとってみて下さい。
愛着障害は、気分の不安定差、基本的な他者への信頼感の欠如などから不安定な言動をとり周囲は困惑してしまうケースも少なくありません。
そのため、まずは愛着障害というものがどのような物かどうかをしっかりと理解する必要があるでしょう。